長井の夜

十一月十九日(金)晴
東京発山形新幹線にて赤湯に到り、担当営業H氏運転のレンタカーにてK社に赴き香料提出を行ふ。H氏先日来K社より電話にて依頼されし件につき何も為さざるは明白なるも、的外れなる講釈を始めて話題を逸らす事に懸命なり。其れ以外は殆ど世間話無駄話に終始するも、大半は故意か誤解か定かならずと雖も正しからざる事どもにて、結果として嘘八百を並べるばかりなり。其の厚顔無恥正に驚くべし。愛想よく調子よく接し、世辞を言ひて接待をしてをれば何とかなるものと高を括り切つたる様子にて、其の古色蒼然、化石の如き営業スタイルは寧ろ哀れむべきか。夜先方の責任者と其の部下一名を交え会食。九時半散会となり長井市の場末に在るビジネスホテルに投宿。寒き事真冬の如し。聞けば摂氏一度といふ。其の後は出張の常としてテレビ観覧。家にテレビのなければかやうな時しかコマーシアルすら接する機会なく、すべてが新鮮なれば映像の鮮明にして記憶に刻み込まれる事の深さは常日頃テレビに接する人の比に非ず。又、視聴覚情報の多さや面白さの故か、或いは夢中になつて見入る為か、暫く見るうち全身発汗の上疲労困憊することも少なからず。殆ど初めてテレビを見る原始人の如き反応にて恥ずかしき事限りなし。此の日はサスペンス劇場の類を途中から見始めて止められず。中山仁の老いた召使の如き風貌に衝撃を受く。其の後はパフイの出た番組を見る。パフイの曲に踊りを付ける振付師の「南流石(みなみ・さすが)」なる名前を面白く思ふ。十一時半就寝。