2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

耳の世界

十月三十一日(水)晴 宮城道雄著『春の海』(岩波文庫)讀了。盲人にとつて音が如何なる意味を持つかについて考へさせられる事の多い随筆集である。触覚や匂ひについての言及もあるが、矢張り音、それも樂器や音樂のそれではなくて生活の中にある様々な音に對す…

書と小唄 

十月二十九日(月)晴 雨の後にて空澄み切つて青く清清しき朝なり。通勤時大船まで三十分歩く。定時退社、歸宅後直ぐに夕餉を摂り、家人と車で出掛け鎌倉の原山先生宅に向ふ。家人の書道の先生である。最初小唄についての話を伺ふ。先生は亡き御母堂が小唄を…

多忙

十月二十八日(日)雨 午前、車にて出掛けガソリンを入れ灯油を買ひクリーニング屋に行つて夏物を出し食料品日用雑貨の買物の後歸宅。屋根裏から毛布、ストーヴ類を出し扇風機等を仕舞ふ。更に嶺庵にて書畫の軸を掛ける為の吊り具を取り付け、季節外れなるも象…

夏目坂根岸谷中

十月二十七日(土)陰 八時家を出で一如庵に向かひ十時より稽古。大和樂、布袋軒鈴慕、布袋軒三谷、流し鈴慕曙調子を二回。そして一閑流六段を二度吹く。學生時分に買つた一尺八寸が今になつて割によく鳴り出した。最近は家でも八寸をよく吹き、外曲も練習して…

蒲田澁谷 

十月二十四日(水)晴 營業報告会なるものがあり、其れを聞きに蒲田の某ビルに朝から赴く。午後五時終はり、東急線を乘り繼き澁谷に至る。古書センターにて近藤啓次郎『大観傳』、野口米次郎『光悦と抱一』を購ふ。七時より大和田傳承ホールにて本條秀慈郎三…

外食 

十月二十三日(火)陰時々雨 結婚一周年なれば家人と藤沢にて外食を為す。又、此の日來年の手帳を購ふ。今年のものと同じ高橋書店のリシエル五番である。今の処余の最も理想に近き手帳也。価一阡四百四十九圓。

骨董と端唄 

十月二十一日(日)晴 宿醉殘り睡氣甚しき中何とか起床。入浴の後着物に着替へ九時半過ぎ家人と家を出づ。電車にて有樂町に至り、大江戸骨董市を覗く。家人は扇子形の文鎮、余は舟形の水滴と印傅の名刺入れを購ふ。又、三味線の撥の形をした小さなストラツプ…

茶と花火 

十月二十日(土)晴 午前中嶺庵の掃除と衣更へを為す。晝前一人家を出で電車を乘り繼ぎつくし野に至る。岳父が車で迎へに來て呉れ家人の實家へ。丁度午前中の稽古が終はり皆で晝食を取る際中にて余も加はつて晝食と為す。薄茶一囘、包み袱紗一囘点前の後四時…

夢の部屋 

十月十八日(木)雨後陰 未明激しい腹痛に目を覚まし厠に駆け込み呻吟する事小半刻に及ぶ。恐らくは晝に食せし咖喱と夕食後に食べた賞味期限切れのヨーグルト、そして夜半暑くて布団を退けたまま眠り腹を冷やしたせゐであらう。國禁を破つて異國のものを食べ…

浪花節 

十月十六日(火)晴 宮崎滔天著『三十三年の夢』讀了。此の一週間外出や野暮用が續いた為思ひの他時間が掛かつてしまつた。讀み物としても無類の面白さであるが、自ら浪花節のやうな半生を終へて正に浪曲師に弟子入りしてしまふ処など傑作な人生と云ふべきで…

鎖人 

十月十五日(月)晴 偏屈極まつて余竟に鎖人と為す。鎖國に非ずして鎖人也。即ち諸外國の民との交諠交際を謝絶するもの也。もとより異國に住むに非ざれば日頃接する機会の無しと云へども、折節會社にとつ國の人來る事あり。中には余の海外駐在時の知己の訪ね…

根津谷中千駄ヶ谷

十月十四日(日)陰時々小雨 連日着物姿にて今日は家人と倶に家を出づ。電車を乘り繼ぎ根津に至る。徒歩根津神社に足を運ぶ。余は初めて詣づるも徳川将軍家より献納されし境内は広く楼門本殿透塀等の立派なる事に驚く。 根津神社 境内のベンチにて持参の握飯…

竹と絲 

十月十三日(土)晴 紬の着物に先日谷中で買つた帯を締め八時過ぎ一人で家を出づ。十時より一如庵の、久しぶりに一階の座敷で稽古。大和樂、布袋軒鈴慕、布袋軒三谷に流し鈴慕の曙調子を二度吹いた後初めて一閑流六段を吹く。雑談の後十一時半辞して地下鐡に…

墓参三絃

十月十一日(木)晴 晝まで仕事を為し午後半休を取り東海道線東横線地下鐡を乗り継ぎ本駒込に到る。驛より本郷通りを歩み曹洞宗の名刹吉祥寺に赴く。境内宏大にして墓域も広し。八百屋お七が吉三郎に出会ひし寺として名高く、山門を過ぎて左手にお七吉三郎比翼…

讀書計畫 十月十日(水)晴

草森紳一著『本が崩れる』讀了。此の人の著作とは當分付き合ひが續きさうである。直に次の書、即ち宮崎滔天著『三十三年の夢』を竟に讀み始む。松岡先生の千夜千冊上にて知つて以來讀まうと思ひながら久しく果たせずにゐた一書で、丁度機も熟したので讀むこ…

片岡凝蔵 

十月九日(火)陰後晴 長引く五十肩は右肩から左肩へと移つて腕は上がるものの可動域は狭まり、痛みは増してゐる。更に此の処酷い肩凝りが重なり、老體の不如意に氣も鬱して來る。歸宅後も重い二尺三寸管を持つ氣になれず久しぶりに一尺八寸管を吹くに思ひの…

鎌倉散策 

十月八日(月)晴 ヤンキースが勝つたのを見届けてから、午後一時過ぎ家人と家を出で、電車にて北鎌倉驛に往く。鎌倉街道を暫く歩き長寿寺を拝観。鎌倉にしては割と風情のある寺である。其れから亀ヶ谷切通しを抜けて英勝寺まで行き拝観。竹林の風にそよそよ…

きんとん 

十月七日(日)雨後陰 十時過ぎ車でN子の實家に赴き、晝食を挿んで三時過ぎまで茶の湯の稽古。少人數なれば人の稽古も見て、合間は雑談をするなど樂しく過す。門人三人は去り殘りたる内輪の者にて珈琲を飲み、其の後近くに買物に出て戻れば既に夕刻となり、…

上野人形町谷中 

十月六日(土)晴後雨 紬の着物を着け家人と二人上野に赴き、東京國立博物舘に往く。まづ本舘一階十八室近代美術の松林桂月「長門峡」に圧倒される。細密でありながら雄渾にして幽邃なること比類なき傑作也。平成舘に移り「尚意競艶―宋時代の書」展を見る。…

愛煙家 

十月五日(金)晴 嫌煙家とか嫌煙運動といふものが嫌ひである。余は煙草を吸はないが、嫌煙を言ひ募るやうな人と愛煙家を比べると、後者の方に味はひのある人が圧倒的に多い。禁煙をしやうとして出來ぬ人ほど滑稽なものはないし、青筋を立てて煙草を嫌がる人…

背反 

十月四日(木)晴 余に最早反骨精神といふやうなものはない。世の中に背を向けてはゐるが、それは世の流れに馴染めないからであるし、舊いものに惹かれるのも懐古趣味であるよりは、ただ其方に親しみを感じるからに過ぎない。支へてゐるのは諦めと抑制である…

日常

十月三日(水)雨 六時二十分歸宅。浴衣に着替へてから嶺庵にて家人と今週末の予定につき相談。其の後尺八と書の稽古。八時より夕食、納豆と味噌汁。食後讀書。珍しく夜入浴して十一時過ぎ就寝。

秋の氣配 

十月二日(火)陰 朝通勤で驛に向かふ道で今年初めて銀杏を見る。昨年であつたか街路樹として驛までの道に並ぶ公孫樹の枝がここまでやるかと思ふ程無殘に伐り落とされたにも關はらず、僅かに殘つた枝に葉を繁らせ、かうして實まで落とすやうになつた。植物の…

子規を想ふ 十月朔日(月)晴

柴田宵曲『評傳正岡子規』讀了。余が子規を夢中で讀んだのは大學四年後半から就職して一年目の秋頃までの事であつたと思ふ。岩波文庫で『飯待つ間』『松蘿玉液』『墨汁一滴』『仰臥漫録』『病牀六尺』などを面白く讀み、子規の生涯の凄みと痛ましさに胸を打…