蒲田澁谷 

十月二十四日(水)晴
營業報告会なるものがあり、其れを聞きに蒲田の某ビルに朝から赴く。午後五時終はり、東急線を乘り繼き澁谷に至る。古書センターにて近藤啓次郎『大観傳』、野口米次郎『光悦と抱一』を購ふ。七時より大和田傳承ホールにて本條秀慈郎三味線リサイタルを聴く。現代曲のみにて、現代邦楽の如何なるものかを知りたくて足を運ぶも、結果から言ふと余の好みには非ざる也。只、秀太郎さんの作になる尺八と三絃のための「竹取」といふ曲は面白く聴いた。いつもながら険しい顔つきの三橋貴風が三本の丈の異る竹を使つた演奏も、技巧はもちろん凄いが音色も良く曲に合つて見事であつた。相当高度で特殊な吹き方も入つてゐたが、それも秀太郎師が手をつけたのであらうか。だとすれば師は本當は尺八も相當吹けるのではないだらうか。此の春其の秀太郎師の前で余が松風を吹いたことを思ひ出し、今更乍らに冷や汗の出る思ひである。他の曲は珍しさはあつたが、何故かATGや新藤兼人の映畫を思ひ出し、其の中で流れてゐたら良いだらうといふ氣がした。九時前終了し、十時過ぎ歸宅。森まゆみ著『年をとるのも藝のうち』讀了。岡本文弥師匠の聞き語りである。面白く、新内に對する親近感がますます強まる。