書物・読書・古本

捨てるための読書

蔵書の整理をはじめた。昨年に引きつづき、本を大量に処分(売却ないし廃棄)するのである。今回は車に積める量を超えたので、出張引き取りに来て貰うことにした。電話で問い合わせること四件目でやっと来て貰う古書肆が決まった。最初の三件は対応が覚束な…

日本語からの哲学

『日本語からの哲学』という本【1】を読んだ。 「です・ます」調で書いた論文が査読で撥ねられたことに端を発して、なぜ論文を「です・ます」調で書いてはいけないのかという問いから始まった思索の成果である。それだけ聞くと、世間的常識に対する反感やル…

ユリアヌスの願い

ユリアヌス帝が復興しようとしたのは、我々がギリシア・ローマの神話の神々として知るユーピテルやアポロンといった神に捧げる神殿と、そこで行われる祭祀や神託などである。コンスタンティヌス帝によるキリスト教の公認と皇室資産のキリスト教会への寄付か…

キリスト教の勝利、或いは不寛容な世界の出現

「ローマ人の物語」第14巻『キリストの勝利』読了。ユリアヌスとテオドシウスという、方やギリシアの哲人を理想としてキリスト教徒の横暴を防ぎたい皇帝と、一方は完全にキリスト教に取り込まれて伝統的な多神教を禁じるに至った皇帝が登場する時代である…。…

一神教への吐き気

きっかけは、香料について旧約聖書を調べたことに始まる。高校時代に岩波文庫の『創世記』を読んで以来、たまに文学や歴史書などに参照された『詩篇』や『雅歌』の一節を聖書協会訳で飛ばし読みすることはあっても、まともに読んだことはなかった。それが、…

ローマ世界の終焉

自分の天邪鬼ぶりに驚くしかないが、塩野七生の『ローマ人の歴史』を最終巻であるXV巻「ローマ世界の終焉」から読み始めた。そうしようと決めて始めたことではないのだが、結果としてそうなった。きっかけは、『ヒュパティア』(エドワード・J ・ワッツ著、…

断捨離

齢六十を過ぎたこともあり、身辺整理というほどでもないが、家の中のものを減らそうと思い立ち、昨年の末から多くのものを捨て始めた。粗大ごみを持ち込めるストックヤードに何度通ったことか。本棚もふたつ解体し、その分の本も処分した。画集なども一部は…

その後

衝撃はまだ続いている。今の自分の状態をうまく言い表わすことばはいまだ見つからないが、大雑把な概念や用語でわかったつもりになるよりは、この感情と理性に渦巻く混沌こそをきちんとからだ全体で受けとめるべきなのだろう。 無知と無関心に対する羞恥心と…

人生を変える一冊

石牟礼道子『神々の村』読了。「苦海浄土」第二部である。また、図書館で『桑原史成写真集 水俣事件』および『写真集「水俣を見た七人の写真家たち」』を借りて来た。正視せねばならぬという、自らに課した義務としてそれらの写真を凝視した。そして、第三部…

化学工業という「悪」

恥ずかしながら告白する。懺悔と言ってもいい。初めて石牟礼道子著『苦海浄土』を読み終えたのである。高校の時、教師に勧められた。すぐに買って書棚に並べたもののそのまま読まずにいたのである。今回松岡正剛と田中優子の『日本問答』と『江戸問答』を続…

3つの婚約解消事件

先日、浅見雅男の『大正天皇婚約解消事件』を読み終えた。これで、『闘う皇族』と合わせ、明治後半から大正期にかけて起こった三つの婚約解消事件の詳細を知ったことになる。そのすべてに「伏見宮系」皇族が絡んでいる。簡単にまとめておこう。 まずは、他な…

困った血筋

『闘う皇族』読了。前回取り上げた宮中某重大事件の後は、「朝融王事件」を追い、その両事件の大元である朝彦親王を振り返る内容である。朝融王事件というのは、宮中某重大事件の当事者で、何とか娘を皇太子裕仁の正室に据えることに成功した久邇宮邦彦王が…

書評の良し悪し

今朝雨の中新聞を買いに出ると朝日が売り切れていたので読売を買った。昨日は朝日を買って、朝日の土曜版には書評が載っているので読んだばかりだが、読売の書評は日曜なので二日続けて書評欄を読むことになった。昨日は中公新書『板垣退助』や兵藤裕己の『…

詩人の本棚

空港に着いてからパスポートと航空券を忘れてきたことに気づくのはいつものこととは言え、その狼狽ぶりはいつになっても慣れるものではなく、タブレットで予約したシートの確認とクレジットカードの支払い明細を確認するうちにニューヨークに着いた。それか…

嫌な連中

浅見雅男の『闘う皇族 ある宮家の三代』を読んでいる。駄場の本で「天皇家vs伏見宮家」の構図を知り、先の浅見の本で「伏見宮系の皇族」についての知識を得た上で、こんどはその伏見宮系の中で最も問題の多い久邇宮家を主題に据えた本書に行きついたというわ…

もうひとつの天皇家

浅見雅男の『もうひとつの天皇家 伏見宮』読了。『天皇と右翼・左翼』で度々言及のあった伏見宮系皇族について詳しく知りたくなって読んだものである。初期の伏見宮のことは、横井清の『室町時代の一皇族の生涯』を読んでいたので、「看聞日記」著者である貞…

天皇家対伏見宮家

駄場裕司『天皇と右翼・左翼』を昨日読み終えた。かなり面白い本である。近代日本の隠された対立構図を天皇家vs.伏見宮家皇族の対立を軸として読み解くもので、多少穿ち過ぎの嫌いはあるが、それでも「そう考えた方が確かに分かりやすい」と納得してしまうこ…

人工知能の向かうところ

西垣通著『AI原論』(講談社選書メチエ)を読み終えた。何気なくAIについて知りたいと思って手にした本であったが、内容は予想を良い意味で大きく裏切り、AIを軸にしながらも西洋哲学史を総覧したような、実に充実した読書となった。西垣通という人の考え方…

線と地形

原武史『「線」の思考』読了。期待したほどには面白くなかった。鉄道路線と近代の歴代天皇や皇族と宗教を掛け合わせたアイデアは良いのだが、単なる旅行記事のようでもあり、ビジュアルがない分航空会社の機内誌の紀行文より退屈なものも少なくなかった。『…

純粋讀書

カレル・チャペックの『未來からの手紙』を讀んでゐる。小説ではなくエッセイの部類に入るのだらうが、とても面白い。優れた知性と時代への透徹した分析力、そしてユーモアが混合された文章はただただ面白く讀める。というより、面白いから讀んでゐるのであ…

絶対と白と地形

カレル・チャペックの『絶対製造工場』読了。面白かった。原子力を彷彿とさせる、「完全燃焼」によって生じたエネルギーがその場に居る人間にそれぞれの「絶対」を確信させることで生じる軋轢。さまざまな宗教やイデオロギーの衝突による世界の荒廃を戯画的…

百年の分解

京都にあるCDIというシンクタンクから『五〇年後のために』という本を贈って貰った。創立50周年記念誌だという。50周年の50年後は計100年だから、百年史を校了したばかりのわたしにとってタイムリーな書物である。1970年に「京都の人文系の学者グループと、…

書店

暑い中横浜に出て、コンタクトレンズを購う。消費税還元の期限が迫り、また誕生月の割引が重なって安く買える最後のチャンスだったからである。その後久しぶりに新刊書店を覗く。義父より図書カードを貰ったので、それを使って何か買おうと思ったのだが、驚…

読後

ジュリアン・バーンズ『終わりの感覚』を読み終えた。先日観た映画『ベロニカとの記憶』の原作である。ブンガクから遠ざかって久しいが、バーンズを読んだのは90年代に『フロベールの鸚鵡』と『101/2章で書かれた世界の歴史』を読んだきりで、すごい作家だと…

五月十九日(火)陰時々雨

在宅勤務、常の如し。今日は執筆いつになく進む。昨日ジュリアン・バーンズ『終りの感覚』を注文す。先日観し『ベロニカとの記憶』の原作也。バーンズは昔讀んでいたことがあり、映畫にて腑に落ちぬ處があり原作を讀みたくなったものである。 朝 ちりめん山…

5月13日

在宅勤務、例の如し。昨日出勤してA3用紙に印刷したゲラのチェックと明日以降の遠隔会議の準備など。五時半定刻にて仕事を止め、家内と連れ立っての散歩、日課の如し。市民の森の山ふたつを巡る。鶯の声頻り也。一時間ほど歩いて帰宅し、直ちにシャワーを浴…

さらに…

状況はさらに悪くなっている。図書館の話である。神奈川県立図書館もネット予約での本の受け取りが出来なくなり、国会図書館で唯一残ったサービスである文献の遠隔複写郵送サービスも昨日を最後に使えなくなった。あらゆる図書館が門戸を閉ざしたのである。…

ついに…

思い返せば、2月27日を最後にその後は予定のキャンセルに次ぐキャンセルで、一ヶ月後に在宅勤務がはじまり、今のところ五月中までのすべての予定がキャンセルとなった。飲み会も香席も経営会議も出張も、新入社員研修もくずし字の勉強会も何もかもである。…

時代小説嫌い

宮地正人著『歴史のなかの新選組』読了。時代小説の手垢にまみれた新選組を歴史学の中にきちんと位置づける試みである。わたし自身、時代小説や時代劇、映画などによって捏造された新選組像に影響されてか、逆にこの集団の歴史的意味を軽視する傾向があり、…

大きなことば

そのことばの意味や概念、あるいは文化によるコノテーションの違いや思想史的な位置などに興味を持って読んだり調べたりしていくうちに、その拡がりの奥深さにたじろいで探究を断念してしまうことがしばしばある。わたしにとっては「鏡」や「自然」、そして…