書物・読書・古本

幕臣能吏の明治維新

田中正弘著『幕末維新期の社会変革と群像』(吉川弘文館、2008)に収められた、「維新変革と旧幕臣の対応」という論文を読んだ。幕臣であった宮本久平と小一父子の幕末から明治にかけての動向を追ったもので、維新による幕臣の転身の多様さの中でもめずらし…

稲畑勝太郎

鹿島茂の本は結構読んでいる。といっても驚くべき多産な書き手なので、読んでいるのは書いたもののほんの一部なのだろうが、まあまあ楽しめる本が多い。軟硬とりまぜた、情報量の多さとそのさばき方、そしてわかりやすい図式化などが長所だが、ときに杜撰な…

歴史小説

わたしは歴史小説を読まない。ましてや大河ドラマはまず見ない。何というか、不満と違和感で不愉快になってしまうからである。司馬遼太郎などまったく好まない。「峠」だけ昔読んだことがあるが、その後二度と司馬の本を手にしていない。フィクションならま…

バロック

年末年始にやむを得ず何度か日本酒を飲む機会があったのだが、やはりいけない。頭は痛くなるし本は読めなくなるし、何より翌日以降精神状態が沈滞して覇気がなくなる。やはり飲まずにおこうと思う。ワインならそんなことはなく、かつ日本酒より明らかに旨い。…

驚異

友人から貰った年賀状に、昨年750冊本を読んだとあった。一日2冊以上だから、とてつもない量である。高等遊民として一日中本を読んでいられる境遇だから出来るとも言えるが、同じ境遇にあって自分がそれを出来るとは思えない。冊数重視だから分厚い本を避け…

ブーム

今、叢書ウニベルシタスの一冊を読んでいるのだが、この叢書を手にするのは久しぶりのことである。きわめて質の高い海外の著作を翻訳してくれるので、一時はよくこの叢書のものを読んでいた。一冊読むと、次に読みたくなるものも同じ叢書だったりすることが…

京都ぎらい

わたしは京都が嫌いである。一時は足繁く通っていたこともあるが、あることをきっかけにつくづく嫌になった。なまじ好きだっただけに、ケチがついて嫌いになるととことん嫌になる。京都生まれや京都に住む人たちに知人は増えたし、中には結構親しくして貰っ…

一流のもの・こと

若いうちから一流のものに触れておけとはよく言われることである。確かにその通りだと思う。若く頭や感性が柔らかいうちに一流のものに触れていれば、後の人生においてものごとの判断の際に正しい基準が持てるだろうし、審美眼も育つ。とは言え、育ちの良さ…

疲労困憊

書斎の片づけに結局週末の二日間丸々掛かってしまった。腰は痛み肩は凝ったが、数えてみれば書棚から移して紙袋に詰めた書籍は350冊あまりに過ぎず、配置こそ変わったが、書棚が本で埋まっていることは変わらない。逆にどうしてそれだけの分今まで収まってい…

學魔降臨

先日高山宏大人(うし)の謦咳に接する機会があり、大いに刺激を受けた。その博識ぶりはよく知られていようが、そのとどまるところを知らぬ博覧強記の引用と脱線に次ぐ脱線の語り口には、長いこと大学の教員として学生を惹きつけてきた熟達の技があり、時に傲…

ノーベル文学賞

今年はペーター・ハントケというオーストリア人の作家がノーベル文学賞を受賞した。読んだことも聞いたこともない人だが、受賞に反対する人たちの言い分を聞く限り偏りのある問題なしとしない人のようである。毎年、その時期になると日本では村上春樹の受賞…

赤い星

与那原恵著『赤星鉄馬消えた富豪』読了。珍しく新刊本屋に立ち寄った際に目に留まり、読みたくなって購入。あっという間に読み終わった。 帯に「いったい彼は何者だったのか?」とある通り、赤星鉄馬のことを知る人はほとんどいないだろう。かく言う私も、大…

太平記

やっと『太平記』を読み終えた。岩波文庫六巻、兵藤裕己校注本である。面白いとは思う。しかし、それは平家物語や南総里見八犬伝の面白さとは明らかに違う。平家の文学性に比べると、戦の顛末は殺伐としたものだし、間奏に入る漢籍からの蘊蓄語りも退屈であ…

地理からの視点

デヴイッド・ハーヴェイ『新自由主義』読了。これはすごい本を読んでしまった。世の中のカラクリ、現在の格差社会と人々の不幸の原因がわかってしまった。自分の今までの無知を恥じるというより、知って良かったと思う。いろいろなことが「見えてくる」一冊…

自由について

間宮陽介『ケインズとハイエク<自由>の変容』読了。ハイエクやケインズについて自分が何ほども理解していなかったことがよく分かった。そして、自由についても何ひとつ理解していなかったことも。ハイエクはその名前の響きがハイエナやハイレグを想起させる…

バブルの総括

岸宣仁著『賢人たちの誤算―検証バブル経済』を何日か前に読み終えた。社史の執筆で80年代後半から90年代に至り、自分が入社した後の時代となり、あらためてあの頃のことを詳しく知りたいと思いあれこれ読んでいる。中でも『日本経済の記録』第一巻はニクソン…

鎌倉日和

一月十九日(土)晴 比較的暖かい一日であつた。十一時過ぎ家を出で徒歩北鎌倉に向かふ。途中で早めの晝食をとり圓覚寺に入る。賣店で線香「風韻 伽羅」を購ふ。我が家では伽羅天平とともに常用するもので、大分減つて來たので買ひ求めたものである。其の儘鶴…

一生分

十二月十九日(水)晴 佐藤優『私のマルクス』読了。これで、生い立ちから中学時代の塾での受験勉強を経て浦和高校進学までを描く『先生と私』にはじまって、高校一年の夏休みの東欧ソ連ひとり旅の記憶を綴る『十五の夏』、高校時代から大学院までの『私のマル…

信じない

十一月二十五日(日)晴 その後佐藤優氏の著作は『自壊する帝国』『官僚の掟』と進んで、今は『甦るロシア帝国』を読んでいる。その間佐藤氏が獄中で読んで面白いと言った、ヘーゲルの『歴史哲学講義』の上巻を読み終えた。どれも面白いが、やはり読めば読む…

国家の罠

十一月十三日(火)陰 佐藤優『国家の罠』読了。あらゆる意味で面白い。リアルさという点でスパイ小説より面白いし、外務省や検察の内情を知る上で暴露本より面白い。検察官との対話篇としても面白いし、拘置所観察記、思考の内省録としても面白い。映画化され…

二十一の冬

十一月三日(土)晴 佐藤優『十五の夏』読了。面白かった。聡明で問題意識の高い、それでいて素直さもある十五歳の少年が、旅の中でたくさんの人に出会い影響を受けながら、その後の人生に繋がる体験を続けていく。良い人たちに巡り会ったことがよく分かる。私…

十五の夏

十一月朔日(木) 先日佐藤優氏の話を聞く機会があって、面白いことを話す凄い人だと思って何冊か本を読んだ。やはり面白いので「十五の夏」も読む気になった。最近なるべく本を買わないようにしているので図書館の予約をしようと思ったら、横浜市内の18の図書…

詩と短歌

八月二十六日(日)晴 石原吉郎の『北條』と『北鎌倉』を読み終えた。前者は詩集、後者は歌集である。石原への興味はわたしがこのところずっと持ち続けている戦中派への関心のつながりの中で湧き起こったものだ。安田武、渡辺清、船坂弘の著作やその周辺の書物…

憧れの欧州航路

三月二十二日(木)雨後陰 和田博文著『海の上の世界地図―欧州航路紀行史』(岩波書店、2015)読了。幕末以来、ヨーロッパに渡航した者たちの紀行文は多く、その足跡を追った研究や書物も少なくない。それでいて、実際に欧州に行くまでの航路や船舶の歴史を含め…

もうひとつの近代

三月十二日(月)晴 鈴木博之『都市へ』読了。シリーズ日本の近代が中公文庫に入ったもので、もとは1999年の刊行だから20世紀後半の記述は今からすると多少ずれている感じはある。とは言え、先日読んだ山本の本が科学技術を軸にした日本近代概観であるとすれば…

本三冊

三月九日(金)雨のち陰 このところ人に薦められた新書を三冊続けて読んだ。まずは白石良夫著『かなづかい入門』(平凡社新書)。かなづかいに関する歴史的変遷や現代仮名遣のそれなりの意義は理解することは出来たが、それにしても著者の喧嘩腰の物言いは解せな…

戦中派のパトス

二月九日(土)陰後雨 渡辺清著『砕かれた神』読了。前々から気になっていた本であるが、『敗北を抱きしめて』の中で言及されているのを見て読みたくなった。アマゾンの古本は高額で諦めかけていたが、先日鎌倉の古本屋で運よく安いのを見つけて買って読んだも…

京都学派

二月六日(火)晴 吉川安著『化学者たちの京都学派―喜多源逸と日本の化学』を読み終えた。とても面白く読んだ。京都学派というとふつう西田幾多郎や田辺元などの京大哲学あるいは人文系の教授連の勢力範囲をさすことが多いのだが、本書では喜多源逸にはじまる…

戦争責任

二月四日(日)晴 ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』読了。十年以上前の刊行だが、私にとってはきわめて有益で心に残る本であった。戦後の日本の姿について、これほどまで明確かつ幅広く掘り下げた類書を私は知らない。井上寿一の『終戦後史』も、これを読ん…

戦争調査会

十二月二十二日(金)晴 井上寿一『戦争調査会』(講談社現代新書)読了。このところ井上寿一の本を続けて読んでいる。同じ現代新書の『第一次世界大戦と日本』、メチエの『終戦後史』である。『戦前昭和の社会』も持っている。しばらくの間井上章一と混同してい…