バロック

 年末年始にやむを得ず何度か日本酒を飲む機会があったのだが、やはりいけない。頭は痛くなるし本は読めなくなるし、何より翌日以降精神状態が沈滞して覇気がなくなる。やはり飲まずにおこうと思う。ワインならそんなことはなく、かつ日本酒より明らかに旨い。

 そんなこともあって、わたしの「和疲れ」は「和嫌い」の域に進んでいる。食において明確だが、一方で美術なども最近では日本のものにすっかり興味がなくなってしまった。一時あれほどまでに魅了された琳派や南画のたぐいも、まるで食指が動かない。仏像には関心を失って久しいが、日本の美術そのものに今は全く興味がない。その代わりと言っては何だが、一時はすっかり遠ざかっていた西洋美術への関心が強烈に蘇っている。特にバロックマニエリスムあたりへの好みが戻っている。もともと、好きだったのである。「和嫌い」から一歩進んで「洋好み」への回帰である。わたしの場合日本美術の方が後付けで、原点は西洋美術であったのだ。

 年末年始ずっと書斎に籠って本を読んでいた。香水に関するフランス語の本と幕末明治初期の旗本についての古文書、文献、そして高山先生の圏内にある美術書フランス史19世紀の万国博覧会関係の本である。それぞれ別方向の興味ではあるのだが、とにかく面白くてしょうがない。時間が足りず、無駄な時間を過ごしたくない気持ちで一杯である。今日は図書館でヨーロッパの装飾美術に関する大型本を借りて来たのだが、古典主義とバロックをめぐるその解説と図像が実に楽しい。自分の無知も思い知らされはするのだが、それでもオーリキュレール様式やア―カンサスについての説明は慈雨のように頭に沁み込んでいく。日本酒を飲んでいたらこういう訳には行かないのである。今年はバロックマニエリスムに耽溺する一年になりそうである。