思ひ・ため息・ひとり言

《「間(あいだ)」の抜けた映画―エリセとアナの四十年》

映画が始まると映画の冒頭部分が映しだされ、そして、映画の最後になると映画の結末が流されていく。…なんとわかりきったことをくどく言うと思うだろうか。そうではないのだ。最初の「映画」はヴィクトル・エリセ監督による『瞳をとじて』であり、冒頭と結末…

街の色彩

穴八幡の交差点から地下鉄早稲田駅に向かって歩いているとき、突然目の前の景色が色彩を増し、周囲の建物や店、看板やショーウィンドウなどが鮮明に見え始めた。驚いて周りを見回すと、それは1980年代の早稲田通りそのものだった。その途端にわたしは思い出…

コロナ、わたしの場合-2-

回復期の後遺症としては、頭痛(後頭部や脳幹に感ずる鈍痛)や肺や気管支に痰が詰まったような気持ち悪さ、食欲不振、眠気などがある。夜中に目を覚ました際に頭痛を感じるし、朝起きる時にも吐き気に似た気持ちの悪さを胸部に感じる。頭の働きも鈍く、本を…

人生を変える一冊

石牟礼道子『神々の村』読了。「苦海浄土」第二部である。また、図書館で『桑原史成写真集 水俣事件』および『写真集「水俣を見た七人の写真家たち」』を借りて来た。正視せねばならぬという、自らに課した義務としてそれらの写真を凝視した。そして、第三部…

化学工業という「悪」

恥ずかしながら告白する。懺悔と言ってもいい。初めて石牟礼道子著『苦海浄土』を読み終えたのである。高校の時、教師に勧められた。すぐに買って書棚に並べたもののそのまま読まずにいたのである。今回松岡正剛と田中優子の『日本問答』と『江戸問答』を続…

困った血筋

『闘う皇族』読了。前回取り上げた宮中某重大事件の後は、「朝融王事件」を追い、その両事件の大元である朝彦親王を振り返る内容である。朝融王事件というのは、宮中某重大事件の当事者で、何とか娘を皇太子裕仁の正室に据えることに成功した久邇宮邦彦王が…

たくさん嫌い

少数であるうちはとても好きなのに、多数になると嫌いになることが多い。若くてかわいい女の子は大好きなのだが、それが大勢になるととたんに嫌になる。三人くらいなら、その中の好き嫌いがはっきりして、一番好きな娘が確定すると同時に他のふたりの個性を…

悲しい現実

四年半の懲役を経てシャバに出て、いざ元いた組に戻れると思ったら、因果を含めて自分を刑務所に送り出した組長はすでに破門となっておらず、跡を襲った新しい組長に「この組にお前の戻る場所はない。旅に出るかカタギに戻るか好きにしろ」と言われた、…そん…

純粋讀書

カレル・チャペックの『未來からの手紙』を讀んでゐる。小説ではなくエッセイの部類に入るのだらうが、とても面白い。優れた知性と時代への透徹した分析力、そしてユーモアが混合された文章はただただ面白く讀める。というより、面白いから讀んでゐるのであ…

今日のひと言

奢る上司は貧しからず。

ハードバンクス

パリーグCS終了。地力で勝るホークスが順当に二連勝。王者相手に拙守拙攻では勝てるわけがない。まあ、その程度のチームではあるのだが、ロッテは。西武がそのロッテに競り負けたのが悔やまれる。西武なら負けるにしてもあんな負け方ではなかったように思わ…

嫌悪と麻痺  

アメリカという国に対して多くの国の人々が複雑な感情を持っていただろうと思う。憧れや敬意と同時に嫌なもの、嘘くさく空しいものを感じてもいたのではないかと思うのである。しかし、この四年でまったくの嫌悪と軽蔑に変わってしまったように思われる。あ…

嘗ての書き捨て

以下は、ずっと前に書いたままこの日乘にあげなかったものである。くだらない読み物だが一応あまりに間の空いてしまった責めを塞ぐ思いで載せる。ぼちぼち再開していきたい。ちなみに下記にある年史の校正は昨週に終えたばかりである。 枯れた、厭きた、草臥…

薫風問題

会社の社内報のタイトルを「薫風」という。良い名前だと思う。それの英語版が出ていて、そのことを社史で取り上げたところ、スペルが違うのではないかと、何かにつけ細かい役員から指摘を受けた。わたしは「Kumpu」としたのだが、実際は「Kunpu」だそうで、…

日課大全

例年にない蟄居謹慎の連休である。朝七時過ぎに起きて、洗顔の後まずストレッチをする。軽めの朝食の後八時代には書斎に入り、珈琲を飲みながら読書執筆で午前中を過ごす。やや遅めの昼食は、ステーキやパスタなど一日のメインの食事としてワインを飲みなが…

雑感

センバツ高校野球中止。高校野球あるいは高校球児を特別視するつもりはないけれど、可哀そうだなとは思う。一生懸命やって勝ち取った全国大会出場という意味ではほかのスポーツと変わりはないはずだが、まあとにかく残念である。要するに、本当に開催して感…

日々雑駁

27日に異業種交流の飲み会に行くと、当初の予定33人の筈が12人になっていた。在宅勤務、ないし出社や宴会への出席禁止の指令が出たためという。出席者の中にも明日から在宅勤務という人が数人いた。業態にもよるが、製造業の場合工場は操業を続けるわけだか…

ショック

会社で仲良くしていた、というよりわたしが可愛がっていた若い女の子たちが次々とわたしのそばを去っていく。この2~3年のうちに、2015年入社がふたり(OちゃんとK)、16年入社がひとり(Fさん)、退社して転職していった。そして13年入社でこのところ一番仲…

別人

熱は下がり恢復期に入ったが、心は晴れない。と言うより、前にも大病の後に感じたことだが、自分が全くの別人になってしまったような感覚がある。日々のルーティーンのリズムが崩れたせいなのか、熱やウィルスに脳が侵されたせいなのか知らないが、廻りにあ…

中二病

この言葉が広く知られるようになって久しい。その特徴や実例を読むと今の自分にもあてはまることが少なくなくて苦笑を禁じ得ないが、振り返れば確かに中一の秋ぐらいからから中二の終わりまでは、大人ぶって背伸びしているくせに驚くべき無知さをさらけ出す…

一流のもの・こと

若いうちから一流のものに触れておけとはよく言われることである。確かにその通りだと思う。若く頭や感性が柔らかいうちに一流のものに触れていれば、後の人生においてものごとの判断の際に正しい基準が持てるだろうし、審美眼も育つ。とは言え、育ちの良さ…

ものの数にも入らない

こちらでは親しく接して貰っていると思っているが、要するにその人にとって自分がものの数に入っていないことがわかって寂しくなることがある。ある写真家の写真を江戸絵画と組んで見せるという試みがあって、これを見た人が感動してこの試みを多くの人に知…

怠慢のアウトソーシング

給与や勤怠関係の業務が外部の業者に委託されてから数ヶ月経つが、これがまったく使えないシステムである。名指しで悪いが、ペイロールという会社である。ペイロールとは米語で給与そのものを指すから、そのネーミングからして嫌である。株式会社お給金、と…

独り言

二日連続で、朝の電車の中で独り言を言い続ける人に出遭った。心か頭の不調な人なのだと思うが、最初の日はごく普通の30〜40代の女性が、「実戦に弱い?」「実戦に弱い?」と、延々と疑問を投げかけていた。今日は男性で、「朝は絶対ダメ」「朝は絶対ダメ」…

それにしても

それにしても、である。賀も亀もめでたいことばではある。しかし、十と千では百倍も差がある。それはまさに実力の差である。千賀に対して十亀では、…勝てる筈もないのである。投手力の弱さ、というより先発ピッチャーのタレント不足は、ペナント中は見て見ぬ…

寂しさ

涼しくなると急に寂しく心細くなる。秋になるといつもそう思う。暑い暑いと言ってはいたが、涼しくなるととたんに、あれが自分にとって一番居心地が良く、寂しさとは無縁に生活の出来る気候だったのだと悟る。朝晩に冷気を感じはじめると、気分が塞いで元気…

怒り心頭

午後松岡正剛さんに会いに赤堤に行く。原稿の依頼方々の挨拶だが、一時間いろいろな話をする。十文字美信さんに撮り下ろして貰った香道具のカレンダーを持参して感想を聞きながらいろいろ話をしたかったのに、豪徳寺の駅で待ち合わせた広報のМが、何と電車の…

順境

余は順境に強い方だと思ふ。天氣も體調もよくて、廻りの者がお膳立てしてくれ、自分の氣力も充實してゐる時、機嫌よく何ごともうまく行くやうな氣になる。言ひ換へれば調子に乘りやすいといふことである。調子には乘るが、調子から外れると途端に力を失ふと…

つまらない日々

何だかつまらないのである。何をやっても面白くない。気力がなく、何もかもが面倒でうんざりする。そして何より眠い。11時に寝て6時に起きる生活だが、実際には就寝が11時半近くになることもあり、7時間眠れるわけではない。そもそも、8時間寝ないと頭がよく…

墓参

昨日土曜に諏訪湖畔の霊園に墓参りに行って来た。会社の先輩調香師で、三年前に亡くなったМ氏の墓である。入社して二年目に研究所配属になって以来、色々と世話になった方である。ただ、多少狷介なところがあり、香り創りに関する意見も異なっていたため、最…