昭和・戦争・日本人

その後

衝撃はまだ続いている。今の自分の状態をうまく言い表わすことばはいまだ見つからないが、大雑把な概念や用語でわかったつもりになるよりは、この感情と理性に渦巻く混沌こそをきちんとからだ全体で受けとめるべきなのだろう。 無知と無関心に対する羞恥心と…

化学工業という「悪」

恥ずかしながら告白する。懺悔と言ってもいい。初めて石牟礼道子著『苦海浄土』を読み終えたのである。高校の時、教師に勧められた。すぐに買って書棚に並べたもののそのまま読まずにいたのである。今回松岡正剛と田中優子の『日本問答』と『江戸問答』を続…

3つの婚約解消事件

先日、浅見雅男の『大正天皇婚約解消事件』を読み終えた。これで、『闘う皇族』と合わせ、明治後半から大正期にかけて起こった三つの婚約解消事件の詳細を知ったことになる。そのすべてに「伏見宮系」皇族が絡んでいる。簡単にまとめておこう。 まずは、他な…

詩人の本棚

空港に着いてからパスポートと航空券を忘れてきたことに気づくのはいつものこととは言え、その狼狽ぶりはいつになっても慣れるものではなく、タブレットで予約したシートの確認とクレジットカードの支払い明細を確認するうちにニューヨークに着いた。それか…

もうひとつの天皇家

浅見雅男の『もうひとつの天皇家 伏見宮』読了。『天皇と右翼・左翼』で度々言及のあった伏見宮系皇族について詳しく知りたくなって読んだものである。初期の伏見宮のことは、横井清の『室町時代の一皇族の生涯』を読んでいたので、「看聞日記」著者である貞…

天皇家対伏見宮家

駄場裕司『天皇と右翼・左翼』を昨日読み終えた。かなり面白い本である。近代日本の隠された対立構図を天皇家vs.伏見宮家皇族の対立を軸として読み解くもので、多少穿ち過ぎの嫌いはあるが、それでも「そう考えた方が確かに分かりやすい」と納得してしまうこ…

大久保の野望

明治6年、大久保利通は内務卿となった。内務省という、それまでの太政官制にない官庁を作ることで、大久保は政府を掌握することに成功する。大蔵省や法務省、外務省といった、国事の主流とされる官庁ではなく、警察機構を取り込み新たな任務と役割をみずから…

或る海軍大佐の生涯

大正9年(1920)7月16日、広島県江田島にある大日本帝国海軍兵学校では第48期の卒業式が行われていた。難関の入学試験を突破して江田島に学ぶこと3年、卒業証書を手渡された後、「生徒用の軍装から真新しい純白の海軍少尉候補生服に着替えて祝宴に臨む[1]」エ…

すずさんふたたび

映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を観る。3時間近い長編であり、前作『この世界の片隅に』で描き切れなかった原作の部分を加えて丁寧に作り直した作品と言えるだろう。もう少し、りんさんとすずの関係を中心にしたスピンオフ的なものになるのか…

記憶の町並み

土曜に街歩きをした。ブラタモリならぬ「ブラた××」の第五回で、今回は女の子三人、野郎二名の五人で三田から麻布界隈を歩いた。慶應女子もいたので義塾三田キャンから綱坂を昇り、三井倶楽部前で記念写真の後神明坂を下って中之橋で古川を渡り、狸穴に入っ…

新元号に思ふ

新しい元号が決まつたさうだ。令和といふらしい。笑ふべき無知蒙昧の國粋主義が生んだ、何とも言へぬ珍奇な代物である。元号といふもの、それに使はれる漢字、そして其の典拠となる古典を含め、すべて中華文明からの影響を免れる譯はないのに、國風を利かせ…

石油・ガソリン・オクタン価

六月十八日(月)陰後雨 山本一生著『水を石油に変える人』読了。本多維富という詐欺師を中心に、山本五十六以下の海軍の蒙昧な軍人たちの姿や、そうした科学詐欺の出現した時代背景を追ったノンフィクションで、なかなか面白くてあっという間に読み終えてしま…

たたかう映画

二月十六日(金) 亀井文夫著『たたかう映画』読了。「日本の悲劇」の後、「上海」と「戰ふ兵隊」を観た。その話をしたら友人が岩波新書の亀井のこの本を貸してくれ、読み始めたら面白くて一気に読み終えた。見たばかりの三本の映画の背景や作者の意図が知れて…

日本の悲劇

二月十一日(日)晴時々陰 奇しくも建国記念の日に、亀井文夫の『日本の悲劇』を観た。『敗北を抱きしめて』で触れられていたのでどうしても見たくなりDVDを購入したものだ。これは亀井が戦後になって「主として戦時中に撮影されたフィルムを利用して、日本を…

戦中派のパトス

二月九日(土)陰後雨 渡辺清著『砕かれた神』読了。前々から気になっていた本であるが、『敗北を抱きしめて』の中で言及されているのを見て読みたくなった。アマゾンの古本は高額で諦めかけていたが、先日鎌倉の古本屋で運よく安いのを見つけて買って読んだも…

戦争責任

二月四日(日)晴 ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』読了。十年以上前の刊行だが、私にとってはきわめて有益で心に残る本であった。戦後の日本の姿について、これほどまで明確かつ幅広く掘り下げた類書を私は知らない。井上寿一の『終戦後史』も、これを読ん…

戦争調査会

十二月二十二日(金)晴 井上寿一『戦争調査会』(講談社現代新書)読了。このところ井上寿一の本を続けて読んでいる。同じ現代新書の『第一次世界大戦と日本』、メチエの『終戦後史』である。『戦前昭和の社会』も持っている。しばらくの間井上章一と混同してい…

近代と映畫

七月十日(月)晴 子安宣邦著『「近代の超克」とは何か』読了。この本を読み始めた動機である、「近代の超克」という問題についてのおおよその理解は得られた。今まで何となく知っているようなつもりでいたが、丸で分かっていなかったこともよく分かった。それ…

ほとんどの日本人

七月六日(木)晴 今、子安宣邦著『「近代の超克」とは何か』(青土社)を読んでいる。子安には『漢字論』を読んで以来注目していて、最近も『「大正」を読み直す』によって、大逆事件の意味や津田左右吉のラディカルさを教えられたり、吉野作造や河上肇の凡庸さ…

平凡の強さ

七月五日(水)晴 小熊英二著『生きて帰ってきた男』読了。平凡なひとりの男の、平凡ではない一生。シベリア抑留や結核、戦後の苦難を生きてきた著書の父親のすがたを、「もの書く種族」ではないごく普通の庶民が時代の空気をどのように感じていたかを含めて描…

彼誰忘年會

十二月五日(土)晴 四時より中野第二力酒藏にて恒例の彼誰忘年會。今囘は珍しく二名欠席にて四人で九時半過ぎ迄飲む。今囘は話題に出た人名のうち、今まで余り名の出なかつた人を挙げる。他の多くはいつも名の出る人たちだからである。 押川春浪、厨川白村、…

美術館と戰爭

八月二十九日(土)陰時々霧雨 昨夜、福間良明著『「戰爭體驗」の戰後史』を讀み了へた。思ひの他面白く讀んだ。高田里惠子や竹内洋、筒井清忠といつた人たちによる、「教養」を廻る論議や世代論を讀んでゐたこともあつて、「きけわだつみのこゑ」を軸にした戰…

火山と盃洗、新居

十一月四日(月)陰後雨 九時半家人と家を出で鎌倉に向かふ。京浜東北線車中にて偶然M氏に会ふ。昨日横濱骨董ワールド會場のパシフイコ横濱にて遭遇したる際此の日倶に映畫に行くことは約せしが、電車やまして号車までは指定せざれば奇遇と言ふべし。鎌倉より…

旧制一高

八月二十二日(水)晴 竹内洋著『教養主義の没落』(中公新書)讀了。大正・昭和戦前の旧制高等学校を中心とした教養主義と、戦後の新制大学における教養主義との違いや、その没落の様相や消滅の要因について大方知ることが出來た。旧制高校生や新制大学生の…

六十七年前

八月十四日(火)雨後晴 豊下楢彦著『昭和天皇・マツカーサー会見』讀了。帯にある通り「從來の昭和天皇像を根底から覆す」力作である。『昭和天皇独白録』や『昭和天皇の終戦史』を讀んだ後だけに、戦前・戦中・戦後を通じた昭和天皇の姿が、極めて明確に理…

碌な者ではない

八月六日(月)陰後雨後晴 戦後の進駐軍と政府や皇室とのやりとりについての詳細が、ここ二十年くらゐの間にだいぶ明らかになつて來てゐるやうだ。そして、戦後七十年近くなつて、当時誰が毅然としてゐたか、誰が狡賢く立ち廻つてゐたかも自ずと明らかになり…

教養主義と歩行法

八月一日(水)晴 昨夜筒井清忠著『近衞文麿』読了。余の抱きゐたりし疑問に答ふる書にて、戦前の文麿の人気から戦後の糾弾に至る背景をほぼ理解す。文麿の依つて立つ新渡戸稲造流の教養主義が、その本質からしてマルクス主義や国家主義と言つた原理主義に反…

配役

七月二十三日(月)晴 暑さ稍戻る どうでもいい話ではあるが、もし戦前か戦中の日本を背景にした映画かドラマで近衞文麿を登場させるとしたら、小薮千豊に文麿を演じさせたらよからうと思ふ。小薮がもう少し歳を取れば、かなり似るだらうと思はれるからである。…

新本

七月二十一日(土)陰時々雨 極めて涼し 十一時より一如庵にて尺八稽古。其の後大学近くの古本屋を覗くも何も見つからず、三朝庵でかつ丼を食した後横浜に戻る。地下街の新本屋に往き、岩波現代新書の二冊を購ふ。 豊下楢彦著『昭和天皇・マツカーサー会見』 …

ソ連といふ恐怖国家

七月二十日(金)陰後雨 V.A.アルハンゲリスキー著瀧澤一郎訳『プリンス近衞殺人事件』讀了。此れはタイトルから想像されるやうなミステリーではなく、近衞文麿の嫡子であつた近衞文隆がソ連により不当に逮捕監禁され、戦後十一年に亘つて拘留された挙句に…