乞子漫筆

捨てるための読書

蔵書の整理をはじめた。昨年に引きつづき、本を大量に処分(売却ないし廃棄)するのである。今回は車に積める量を超えたので、出張引き取りに来て貰うことにした。電話で問い合わせること四件目でやっと来て貰う古書肆が決まった。最初の三件は対応が覚束な…

街の色彩

穴八幡の交差点から地下鉄早稲田駅に向かって歩いているとき、突然目の前の景色が色彩を増し、周囲の建物や店、看板やショーウィンドウなどが鮮明に見え始めた。驚いて周りを見回すと、それは1980年代の早稲田通りそのものだった。その途端にわたしは思い出…

断絶か淘汰か―家元制の未来

コロナ禍により、わたしたちの生活や社会、慣習などに大きな変化が起こると言われて久しい。たしかに、時差出勤や在宅勤務が常態化し、家にいる時間が増えた一方で、やはりひとに会う機会は劇的に減った。しかも、人前では常にマスクを着用するので、鼻と口…

日本語からの哲学

『日本語からの哲学』という本【1】を読んだ。 「です・ます」調で書いた論文が査読で撥ねられたことに端を発して、なぜ論文を「です・ます」調で書いてはいけないのかという問いから始まった思索の成果である。それだけ聞くと、世間的常識に対する反感やル…

コロナ、わたしの場合-1-

せっかくコロナに罹ったので、罹患中の状況や症状、そして後遺症などについて書き記しておくことにしたい。数ある中のひとつのサンプルに過ぎないが、何かの足しにはなるかも知れない。 まず、ことは12月20日に始まった。朝会社に行くため駅に向かい、少し早…

ダメ親父

私は見ていないのだが、朝の連続テレビ小説という番組に出てくるのは、たいていどうしようもないダメ親父ばかりなのだそうである。妻と一緒に店を始めようと言い出しても、結局手伝わず、たまに手を出せばひっくり返したりやけどをしたりで、「私がやるから…

明治の闇―神社合祀と樟脳

[数日前、このブログで平田東助の名前を出したが、たぶんあまり知られていないと思うので、わたしが平田を嫌う理由となった「神社合祀問題」について以前書いたものをここに掲載することにしたい] 明治三九年八月、「神社合祀の勅令」というものが発布された…

嫌な連中

浅見雅男の『闘う皇族 ある宮家の三代』を読んでいる。駄場の本で「天皇家vs伏見宮家」の構図を知り、先の浅見の本で「伏見宮系の皇族」についての知識を得た上で、こんどはその伏見宮系の中で最も問題の多い久邇宮家を主題に据えた本書に行きついたというわ…

寛容について

TASCマンスリーという雑誌に、国際基督教大学の森本あんりという人(教授)が寛容さに関する記事を寄せていたのを読んだ。その中で同性愛者は地獄に落ちると書いたラグビー選手がオーストラリア代表から外されたことについて、こうした措置をとったそのラグ…

新聞派

新年になってから、ネットニュースを(新聞社のニュースサイト含め)見ないことにした。また、ユーチューブも何かのリンクでない限り見ないことにした。そして、新聞を読むことにしたのである。朝起きて顔を洗ったら、まず近くのコンビニエンスストアに新聞…

人工知能の向かうところ

西垣通著『AI原論』(講談社選書メチエ)を読み終えた。何気なくAIについて知りたいと思って手にした本であったが、内容は予想を良い意味で大きく裏切り、AIを軸にしながらも西洋哲学史を総覧したような、実に充実した読書となった。西垣通という人の考え方…

たくさん嫌い

少数であるうちはとても好きなのに、多数になると嫌いになることが多い。若くてかわいい女の子は大好きなのだが、それが大勢になるととたんに嫌になる。三人くらいなら、その中の好き嫌いがはっきりして、一番好きな娘が確定すると同時に他のふたりの個性を…

書初め

午後、書初めをなす。毎年恒例となった、余と家内の今年の抱負と目標を半紙に毛筆で認める。その後お初香で筆者を務めることになったので、記録の練習をする。今年は萬歳香とのことで、書くことが多くて大変そうである。その後、手すさびで松岡流の書をもの…

嫌ひなことば遣ひ

いい歳をした大人が「はずい」だの「むずい」などと言つてゐるのを耳にすると、殆ど生理的な嫌惡を覺える。「まるつと」「しらつと」なども耳障りである。さういふことば遣ひをする人は語彙力が貧弱なのか大抵同じ語を繰り返すので、如何にも頭が惡さうに見…

クリスマスの大罪

私は仏教徒なのでクリスマスに興味はない。それでも、世の中が騒ぐこのクリスマスというものの犯す大罪については触れておきたいと思う。 先日WHOが全世界の子どもに向けて、サンタはコロナに免疫があるから高齢でも心配ないと発表したというニュースを見た…

似て非なるものの好き嫌い

顔や名前や雰囲気や芸風が似ているのに、一方は好きで他方は嫌いということがよくある。一方がすごく好きだから、微妙に違う他方が嫌いになることもあれば、もともとそれぞれ好き・嫌いだったのだが、改めて考えてみると似ていることもある。人それぞれの好…

本末転倒怒り心頭

通勤で家から駅に向かう途中に片側二車線ずつの道路が交わるわりと大きな交差点がある。そこの信号は歩車分離となっているから一斉に歩道者向けの信号が青くなる。いわゆるスクランブル交差点である。わたしは駅の方向に行くため斜めに横断しているし、多く…

絶対と白と地形

カレル・チャペックの『絶対製造工場』読了。面白かった。原子力を彷彿とさせる、「完全燃焼」によって生じたエネルギーがその場に居る人間にそれぞれの「絶対」を確信させることで生じる軋轢。さまざまな宗教やイデオロギーの衝突による世界の荒廃を戯画的…

嫌悪と麻痺  

アメリカという国に対して多くの国の人々が複雑な感情を持っていただろうと思う。憧れや敬意と同時に嫌なもの、嘘くさく空しいものを感じてもいたのではないかと思うのである。しかし、この四年でまったくの嫌悪と軽蔑に変わってしまったように思われる。あ…

虚栄の市

先日、会社を辞めた若い女性とランチをする機会があった。3月に退社してすぐコロナとなり、転職活動もままならなかったらしいが、やっと就職先も決まったのでお祝いのランチである。 その時、やはり新しい職場で未知の人の中に入ることへの不安を彼女は口に…

茶の湯の危機

今回のコロナ禍で思いもかけない形で影響を受けた職種や職業は少なくない。今までの生活が、人の移動の自由や密な空間、人と人との接触という、今や当たり前のことでなくなってしまったことを前提として成り立っていたことに、現代社会としては初めて気づか…

京嫌い、再び

とにかく京都が嫌いである。京都が好きでよく行っていた自分に腹が立つ。京都の鼻持ちならない文化と風土に反吐が出る。酔っていたのである。浮かれていたのである。厚化粧の下にある、老いさらばえてなお色気づく醜悪さや堅実なようで見栄っ張りなところか…

好みの違い

朝の連続ドラマは結局見るのを止めた。二階堂ふみは良いのだが、夫役の窪田なんとかという男優の演技が見ていられないからである。福島弁も下手くそだが、とにかくオーバーアクションで台詞がまるで響かない。演じている役の人物自体も確かに共感を覚えにく…

年表の愉しみ

年表を作っている。社史の巻末につけるものなのだが、やってみるとこれがなかなか面白い。何を取って何を捨てるかが自分の判断にかかる訳だから、まさに歴史をみずから作り出している感覚がある。別に捏造しようとしているわけではないのだが、限られたスペ…

今日のひとこと

下手なパロディ、盗むに似たり。

馬鹿の典型

まずは次の文章を見てほしい。 「グループの体質を強化し、活性化させ、同じベクトルへ向けて力を結集させるための施策である。」 特別、問題のあるところはなさそうに見える。ビジネス関係の文書に普通に見られるような表現が使われているに過ぎないと誰も…

倫理的な病

今回の新型ウィルスについて、それが人類に与えた意味についての哲学的な考察にまだ寡聞にして接していないが、わたしなりに感じていることについて少し述べてみたいと思う。 今日NHKの番組で今回のパンデミックの病、というかこのウィルスのネーミングが重…

規模狭隘

尾崎三良『尾崎三良自叙略傳』中巻に次の如き文辞あり。曰く「山縣(有朋)は規模狭隘にして博く人を容るるの雅量なし。其用ゐる處は皆己に諂諛する軽薄の人のみなり」蓋し之現今の首相に該当すること論を俟たず。長州人の弊風ならんか、正に其の国の諸子を…

土佐勤皇党

安岡章太郎『流離譚』読了。とても良いものを読んだという感覚がある。安岡の作品は長らく読んだことがなかったが、万国博覧会関係への興味から『大世紀末サーカス』を読んでみると面白かったので、続けて『鏡川』を読んだらまあまあの佳作という感じだった…

情報格差

常ならぬ状況の中で、ふだんはテレビを見ない私も現況を知ろうとテレビ番組を見はじめた。昨日のNHKスペシャルや今朝の民放などだが、昨夜は経済問題に話題が偏り、今朝は今朝で渋谷の人出がどんなに減ったかといったどうでもいい話題を繰り返しやっていた。…