絶対と白と地形

 カレル・チャペックの『絶対製造工場』読了。面白かった。原子力を彷彿とさせる、「完全燃焼」によって生じたエネルギーがその場に居る人間にそれぞれの「絶対」を確信させることで生じる軋轢。さまざまな宗教やイデオロギーの衝突による世界の荒廃を戯画的に描く。続いて『白い病』も読んだ。こちらは岩波文庫の新刊だが、売れているようだ。まさに今現実のものとなっている新たな伝染病のパンデミックを下敷きにした戯曲だからであろう。軍事に走るトランプのような独裁者がコロナに罹り、その特効薬(ワクチン?)を見つけた医師(会社?)がトランプ支持者のごとき狂信的な群衆に踏み殺されて結局トランプも死ぬ…といった茶番にも似た悪夢が悪夢を呼ぶ話。愚かで狂気にかられた群衆の恐ろしさが描かれ、トランプ信者の狂信ぶりを目の当たりにした我々には、強力な伝染病によるパンデミックという現在の状況との類似以上に、「今」を問う視点を与えてくれる佳作である。

 原武史『地形の思想史』読了。同世代であることや鉄道への好みもあって、原の著作は好きでわりと読んでいる。とは言え多作なのでとてもすべては読み切れないが、この著作も他のものと同様面白く読んだ。比較や対比によって見えなかった歴史の影を炙り出すような「さばき方」にはいつも感心する。「岬」や「湾」、「半島」といった地形にある特定の時代の事件や思想の背景を探ろうとするもので、知らないことも多くて大いに勉強になったが、とにかく読み物として面白いのである。この本では特に、オトタチバナ姫をめぐる神話をもとに、その伝承を伝える神社や史跡が、東京湾を挟んで相模側と上総側で対照的な意味づけをなされていることの、現地を巡ることで得た「発見」が面白かった。『線の思考』も続けて読みたくなり、注文したところである。