彼誰忘年會

十二月五日(土)晴
四時より中野第二力酒藏にて恒例の彼誰忘年會。今囘は珍しく二名欠席にて四人で九時半過ぎ迄飲む。今囘は話題に出た人名のうち、今まで余り名の出なかつた人を挙げる。他の多くはいつも名の出る人たちだからである。
押川春浪厨川白村矢野健太郎島本和彦居島一平山田孝之山下敦弘北条民雄笠原和夫、服部之總、中村彜、梅原龍三郎、森光子、ジヤン・ピアジエ、ヴオーリズ
話題として興味深かったのは、神話化か忘却かといふこと。つまり僅か二十年くらゐ前のことでもきちんと歷史的事實に基づいて語る事が少なくなり、最近の誰かの発言や印象が自己増殖して神話化した言説のみがひとり歩きすることが多くなつてゐる。さもなくば全く忘れ去られるかといふことになるが、神話化も忘却のひとつに過ぎないといふ氣もして來る。
また彼誰同人は長州嫌ひが多いので、IS=長州説や長州=テロリストの末裔といつた議論が盛んであつた。また、何かといふと話題の中に大杉榮が登場するので、大杉榮は枕詞であるといふことになつた。大杉と言つただけで、アナキズム共産主義、幼年學校や軍國主義、關東大震災やら虐殺、差別、甘粕、滿鐡、さらには姦通、情死、男色といつた、日本の近代史における諸問題が自動的に想起されてしまふからである。
それと、改めて大瀧詠一の知的營みの凄味と其れを書き殘してくれなかつた事への怨嗟を皆で感じた。大瀧の深い洞察と知識の前では内田樹が馬鹿に見えてしまふくらゐ、其の識見の廣さは全く恐れ入るばかりである。もつとも彼誰のH大先生を前にした殘りの三名も、その該博な知識の前で同じやうな立場に置かれて拝聴することになるのだが、皆それが樂しみで集まつて來るのである。