平凡の強さ

七月五日(水)晴
小熊英二著『生きて帰ってきた男』読了。平凡なひとりの男の、平凡ではない一生。シベリア抑留や結核、戦後の苦難を生きてきた著書の父親のすがたを、「もの書く種族」ではないごく普通の庶民が時代の空気をどのように感じていたかを含めて描く聞き語りである。まっとうな感じ方や、ごく普通の論理が通じないのは、戦時中だけでなく今の日本の政権担当者にも見られる異様な状態であることがよく分かる。戦後七十年以上経つというのに、政権が目指すのは戦前の政治への回帰であり、その根本思想が当時と何も変わっていないことに驚くばかりである。一方で、ここで描かれた父親ほどに、忍耐強く希望を失わずに生きて行ける平凡な日本人はほとんどいなくなってしまったのではないかとも思うのである。