フランスの歯磨き

 このところ昨年に製作されたヨーロッパの映画を何本か映画館で観た。イタリアの寒村の無垢な青年が奇跡を起こす現代のおとぎ話のような『幸福なアザロ』、ポーランドが共産圏だった時代の歌い手の女性とピアニストの男性との、時代に翻弄された愛と芸術(音楽)の物語をモノクロで陰翳深く描き切った『Cold War-あの歌、2つのこころ』、テロで母親を失った少女の面倒をみることになったその叔父の若い男が、彼女を養女として一緒に生きていくことを決める『アマンダと僕』、そして性同一性障害を抱ながらバレリーナを目指す少女と父親との葛藤を描く『girl』である。それぞれ心に沁みるものがあって、日々の生活の中で突然ひとつのシーンが思い出されて、心が突き動かされる。どれも、主人公を演じた女優男優の魅力に依存した感が多少なくはないが、劇場に足を運んだ甲斐のある作品であった。

 ところで、『アマンダ』を見ていて思ったのだが、フランス映画には主人公が歯ブラシで歯を磨くシーンが多すぎるのではないか。他の国のシネアストに比べ、フランス人監督は歯を磨くシーンを撮るのが好きだとしか思えないほど、気がつけばよく見る。日本の映画は食事のシーンが多いと言われるが、日本映画で歯磨きシーンはそんなに多くない気がする。何故フランス映画に多いのか知りたいところである。根拠のない印象では、ヌーベルバーグあたりから増えた気がするので、大文字のシネマに対し、半ば反体制的な意味合いを込めて、生活の中のありふれたシーンをあえて取り入れたものとも思えるのだが、確信はない。どなたかご存じなら是非教えていただきたいものである。