天心

六月四日(土)晴後陰
浅草に映画『天心』を観に行く。言わずと知れた岡倉天心を主人公とする映画である。天心役は竹中直人で風貌こそ似ていなくもないが、いつもながらの大袈裟な演技で天心の理想や苦悩が安っぽいものになっていたのは残念であった。横山大観役の中村獅童は、特に晩年の演技が中々良かった。映画の見所としてはやはり五浦でのロケがある。2011年の大震災で流された六角堂が再建され、その中から見渡す五浦の海は美しく、その景色に接して天心が感じたことを想い見ることが出来た。かつて私も五浦に遊び、天心の墓を詣で、六角堂の前では尺八の献奏もしたが、中には入れなかったからである。また、日本美術院の建物中で撮られた、大観、観山、春草、武山の四人が並んで写る有名な写真があるのだが、今回の役者による、そのほぼ忠実な再現のシーンは中々良く出来ていて感心した。武山の実直、春草の繊麗、観山の明哲、大観の磊落がよく表現されていた。しかし、映画全体としては天心にしても日本画の誕生にしても、今ひとつ斬り込めていない印象であり、天心に関心のある者にとっては知っていることの復習のような感じで、懐かしさはあるがこれと言って新しい発見がある訳ではなかった。
浅草をぶらつき、横浜で買い物をして帰る。