六角堂消失

岡倉天心の建てた五浦の六角堂が津波により攫はれて消失したことをニユースで知る。甚大な被害を受けた相馬にも近いから、もしやと心配してゐたのだが、現実のものとなつてしまつた。痛恨の極みである。昨年のちゃうど今頃に訪れて、海を臨む絶景のもと尺八を吹奏した際の爽快な気分を忘れることができない。松籟と波の音を美しく響かせ、麗しい松に囲まれた磯の姿も変り果てたであらう。
津波によつて失はれた命はもちろん慟哭に価するけれども、松島や五浦といつた名勝が損なはれ、かつての美しい景色を見られないといふことは、胸の底に渦巻くやうな悲しみを感じさせる。自然や景勝もまた一期一会なのであらう。「もろもろの事象は過ぎ去るものである」といふ釈尊の言葉を今いちど胸に刻む毎日である。