職業

二月十二日(金)晴
永井荷風は従兄弟の杵屋五叟から養子を取るに當つて、其の子を「軍人、役人、醫者、教員には一切させないこと」といふ條件を付けた。其のいずれもが余も爲ることは出來ないし、爲らうとも絶對に思はない職業であるが、余なら此れに加へて政治家と銀行員、警官を入れる。以上の職業に共通するものは何であらうか。はつきり言つて惡人が多いといふことだ。勿論、どんな職業にも惡人はゐるだらうし、上に挙げた職には比率とすれば一般よりも惡人は少ないかも知れない。ただ、ひとりの惡人が社會に與へる影響の大きさが比ではないし、一般になら赦せる程度の惡人でもさういふ職にある者は赦せぬといふことがある。百人の良兵は一人の惡将で滅び、百人の良醫の治す患者は一人の惡醫によつて殺される。百人の良い教員がゐても一人の惡教師がゐれば教育は崩壊する。中で唯一例外かも知れないのが、政治家である。こちらは惡人の方が多いのが前提であるから、百人の惡政治家の中に一人の良い政治家がゐれば、希望がない譯ではない、と思ひたい。
それにしても、である。今日連休にすべくもとから休みを取つてゐたので、何氣なくつけてゐたテレビジヨンで宮崎議員の會見を見てしまつたのである。余は呆れはするが、其の不倫や女性關係を批難する資格はないのでしない。ただ、驚いたのは自民黨に殘るかと聞かれた答へで、政權にある政黨であり政策を實現しやすいし、政治思想も近いので殘りたいといふやうなことを言つた事である。世の中は不倫の中味や今後の身の振り方の方に關心が強いので、まづ氣にも留めない發言であらうが、余には正に語るに落ちたりといふ思ひがした。饒舌に喋る割に誠実さが全く傳はらないといふ點は抜きにしても、政治家としての資質が欠如してゐることは明らかなやうに思はれる。理由はかうだ。この人は男性の育児参加が必要だと言つてゐるが、その理由や男性の育児参加によつて實現したい社會のすがたを語ることはない。どうして男性の育児参加が少子化の對策に結びつくかについての説得力のある説明がないのである。論理的にも、政治のビジヨンとしても、練られ考へられた政策といふより思ひつき、何か世にあるアイデアに飛びついた感が強い。そもそも、男性の育児休暇であるとか育児参加などに、自民黨の靖国神社に参拝するやうな議員が本氣で思想として共鳴してゐるとは到底思へない。それでゐて政治的に思想が近いといふのは、要するに政權黨にゐる方が得に決まつてゐるといふ、それはそれで自民黨議員に共通する「思想」ではあらうが、最初に言つたことの同義反復でしかない。逆に言へば、此の人にはもともと政治思想などといふものはなかつたのである。なくてもそれを隱す、あるやうに振る舞ふといふのが、自民黨のまともな議員であらう。此の人はさういふ問題が問はれてゐるとは思つてゐない場でボロを出した譯だが、それ以外の言動が餘りにお粗末なので、世間的にはその事さへも大した問題にされることはあるまい。二度とこのやうな人が當撰されることがないよう祈るのみである。ただ、此の人は落ちても、同じようなことをして同じ程度の資質しかない、地場に支持基盤を持つ二世三世議員は當撰してしまふのであらう。嘆かはしいのは、本當はそちらの方なのだが。