盛り沢山

九月二十四日(土)陰時々雨
五時半過ぎ起床。八時前夏目坂から少し入った処にある一如庵に着く。布袋軒鈴慕の稽古を令先生から受ける。自分で気づかない吹き癖を多く指摘されるとともに、音の下るところや音程の取り方など細かく指導を受ける。文字通り、ひとつ進めばさらにふたつ難点が見えて来るのが音楽の演奏というものなのだろう。早稲田通りのモスバーガーにて珈琲を飲みながら稽古で指摘された点のお浚いをしてから地下鉄で千駄木に向かう。十時半に家人と待ち合せ、まず岡倉天心公園に行って六角堂の天心像に向かって鈴慕を献奏。それから谷中銀座を歩き、十一時半前乃池に並んで開店とともに入り、名物穴子寿司を食す。安くはないが美味なり。それから団子坂の喫茶店にて再び珈琲を飲み、家人は仕事で此の近くに出掛け、私は暫く喫茶店で休んだ後地下鉄で恵比寿に出て美容院へ。恵比寿に着いたら雨が降り始めていた。散髪の後中目黒まで歩き、其処から目黒川沿いにさらに歩く。食べ物屋や衣料店など洒落た店が続く通りである。途上COW BOOKSなる古書肆を見つけて入る。サブカルから西洋文学、古典芸能から女流随筆といった、読書人好みの品揃えである。矢川澄子の初めて見る本などもあって面白い。その隣に澁澤龍彥の本が並んでいるのはちょっと可哀相ではあるが。結局、雨の中歩いて来たからという訳ではないが安藤鶴夫の『雨の日』という本を買う。谷中を歩いていて『巷談本牧亭』を思い出したせいもあろう。そこに出てくる講談師桃川燕雄が住んでいた辺りを通ったからである。さて、買ったその本を包んだ紙を見ると、そこには谷川俊太郎の此の書肆に捧げる詩が印刷されてある。吉祥寺に金子光晴の書いた文字と挿画を包み紙にしていた古本屋があったのを思い出した。なんだか、その随筆集に載っていそうな連想の起こる「雨の日」であった。それからなお歩いて青葉台に行き美学的施術をしてから、池尻大橋―渋谷―品川経由で帰宅。夕食の後は珍しくNHK土曜ドラマ夏目漱石の妻』を見る。成り行きは見守る他ないが、長谷川某の漱石役はしっくり来ない。漱石の方がもっと端正な二枚目である。とは言え、尾野真千子は好きな女優なので好ましく見ることにしたい。