物語と家族 

二月五日(火)陰
たまにしか映画を見ないせいもあるが、見るとしばらくその映画について考えたり思い出したりすることが続く。得と言えば大変お得である。先日も書いたが、東京物語東京家族の俳優の比較が結構面白い。映画撮影時の実年齢を調べると、これが中々興味深いのである。まず笠智衆の四十九才というのにはまったく驚かされる。若い頃から老け役が多かったとは言え、堂々の老人ぶりであろう。熱海の防波堤に座って海を眺めるシーンでは、年寄りらしく見せるために浴衣を着た背中に座布団を入れた話は有名だが、そうした努力の甲斐もあって、今なら八十くらいの老人にしか見えない。見事である。それに対し橋爪功が実は七十一で、映画の設定の七十二才とほぼ同じであることにも驚く。
それは母親役にも言えて、東山千栄子当時六十三に対し、吉行和子は七十七才である。吉行が若く見えすぎ、東山は今の六十三ではありえないようなお婆さんぶりであろう。長男の医者山村聰が四十三才だったのも驚く。貫禄ありすぎだが、西村雅彦は五十二才で四十代前半くらいにしか見えず、山村と西村で全く逆の年齢である方がすっきりする。
その他、三宅邦子三十七才に対して夏川結衣四十四、杉村春子四十七には中島朋子四十一と、これはまあ、今ならそれくらい若く見えるから順当なところかも知れない。それは中村伸郎四十五才に対する林家正蔵五十才にも言えそうだが、昔だったら正蔵は三十才くらいにしか見えない頼りなさである。それともう一人、老け役で驚いたのは東野栄治郎が当時四十六才だったことで、笠智衆より若いのに完璧に年寄りを演じきっていた。これに対する小林稔侍は七十一才で、これはまあ、実年齢らしい演技であったわけだ。
昔の人は老成していたと言ってしまえばそれまでだが、俳優の個性や配役の妙味も感じさせてくれ、中々に面白い暇つぶしであった。