圧倒的完全版

六月二十三日(土)雨
シネマ・ジャック・アンド・ベティで映画『アンダーグラウンド完全版』を観る。多分96年に通常版を観て大変な衝撃を受け、自分の中の歴代ベストテン入りした映画の、6時間近くに及ぶ完全版である。ブレゴビッチの音楽が気に入って、ジプシーの時のサントラにつづいてCDを買って、今でも時折聞いているのだが、その完全版があるのを最近知って、ついに今日ふたたび見(まみ)えたのである。あれからすでに22年が経っている。映画の中の主人公のひとりクロの息子が生まれてから成長して結婚するまでの期間以上の時間が過ぎたことになる。観たのは最初の離婚の後独身寮に転がり込んでいた時期で、この映画を観てとにかくマルコが格好良くて憧れ、あんな男になるつもりでいたのを覚えている。マルコは要するに悪党で、共産党員で詐欺師で武器商人だが、狡くてすかしていて格好悪いのにどこか魅力を感じる男で、タイプとして自分は明らかにクロであるよりはマルコだと思っていた。そんなことまで思い出して懐かしかった。
さて、映画の方はというと、とにかく圧巻、圧倒されつづけた六時間であった。特に後半は記憶が薄れていたこともあるが、思っていたのと違った展開が多く、ほとんど初めて観る映画のような感じで、完全に映画に「持って行かれた」状態であった。ラストの宴席のシーンはおぼろげに覚えていたが、その意味の持つ重さに涙がこみあげて来た。衝撃を受けた映画というのは、その衝撃の大きさはよく覚えているものの、ストーリーは結構忘れてしまうものだ。筋ではなくいくつかの設定やシーン、音楽が鮮明に残っていて、すごい映画だという思いは持ちつづけるが、さてストーリーとなると忘れていることが多い。DVDなどで繰り返し見ていれば話は別だが、やはり劇場でみたい方なので、結局何度観ても新鮮に感じられるのはこの忘却のおかげとも言える。すごい映画だという記憶しかなくても、そう思った映画はやはり二度見ても圧倒されるものなのである。