別人

 熱は下がり恢復期に入ったが、心は晴れない。と言うより、前にも大病の後に感じたことだが、自分が全くの別人になってしまったような感覚がある。日々のルーティーンのリズムが崩れたせいなのか、熱やウィルスに脳が侵されたせいなのか知らないが、廻りにあるものに対して妙な距離感が出来たり、それまでの日常がどこか理解不能なものに思えたりする。親しかったものが疎遠に感じられるようになり、好ましく思っていたものへの関心を失う。全般に感情そのものが薄くなり、何もかもが面白くなくなっている。基本的にネガティブなことしか考えなくなるが、それでいて焦燥とか不安も特に感じないという奇妙な状態である。凹凸のない薄っぺらな人間になった感じもあり、頭の鈍痛とからだの節々に残る怠さがなくなってしまったら、わたしという存在も消えてなくなりそうな予感もある。気力は失っているのに、やらなくてはならないことを淡々とこなしていくような、およそ自分とは思えないタイプの人間に成り変わってしまった気がしてならない。