悲しい現実

 四年半の懲役を経てシャバに出て、いざ元いた組に戻れると思ったら、因果を含めて自分を刑務所に送り出した組長はすでに破門となっておらず、跡を襲った新しい組長に「この組にお前の戻る場所はない。旅に出るかカタギに戻るか好きにしろ」と言われた、…そんな気分である。

 …四年半の務めを終え、調香師として元いた職場に復帰できるとばかり思っていた。ところが、現在の所長から、調香師として戻ることはありえず、だからといってシニアな功労者として楽な仕事を回せる余裕はない、おのずと不本意シノギじゃなかった仕事をしてもらうことになるから、戻らない方がいいのではと言われたのである。

 うすうす、勘づいてはいた。厄介払いした男が戻ってくることを誰も望みも歓迎もしないことは肌で感じていた。それでも、とにかく戻って香り作りを再開することで、そうした逆境にも耐えようと思っていたのだが、それも叶わぬことになったのである。サラリーマンあるあるではあるが、定年近くなって役職を離れ、部署も変わって肩身の狭い思いを強いられるという訳である。

 年史に専従していた間は、それでもやり甲斐もあり充実していた。それを終えた今、定年までの九ヶ月が宙に浮いてしまった感じである。いよいよ、定年後もふくめてこの先の身の振り方を真剣に考えなくてはならない事態となったようである。