二十一の冬

十一月三日(土)晴
佐藤優『十五の夏』読了。面白かった。聡明で問題意識の高い、それでいて素直さもある十五歳の少年が、旅の中でたくさんの人に出会い影響を受けながら、その後の人生に繋がる体験を続けていく。良い人たちに巡り会ったことがよく分かる。私も、もっと臈長けてからのことではあるが、21歳の二月から三月にかけてヨーロッパをひとりで旅をした経験がある。イギリスからフランス、スペイン、イタリア、ドイツ、ギリシアを巡った。佐藤氏と違って丸々「西側」の国々であったが、結果的にその初めての海外旅行は自分にとっても「その後」に繋がったことは確かだ。佐藤氏ほど旅の中でさまざまな人と話をしたり、交流をしたりしたわけではないが、見て回ったことの影響は今もなお続いている気がする。あらためて、あの時の旅のことを、十五の春のように振り返って書いてみたくなった。その時つけていた旅の記録があるはずなのだが見つからない。捨てた覚えはないから、出てきたら記録と記憶を今の視点で振り返って書き綴ってみたいと思っている。写真は残っているので、そこから思い出すことも少なくないだろう。佐藤氏ほどの面白い体験は少ないだろうが、それでも何を見て何を感じたかを辿るだけで、当時の自分の興味関心の所在を改めて思い知ることにはなるだろうと思う。佐藤氏にあって自分に欠けていたものも含め、楽しい回想ばかりにはなりそうもないが、あの頃から今に至る自分の36年を振り返るちょうど良い時期なのではないかという気もしている。それにしても、私はキリスト教や神学といったものには徹頭徹尾心を動かされたことはないが、佐藤氏のその方面への傾倒を見る限り、もともと資質や思考がまったく違うのだろうという気がする。にも拘わらず、なのか、だからこそ、なのかはわからないが、氏の書くものはとても興味深い。しばらく読み続けることになりそうである。