赤の違い

十一月四日(日)陰
友人の枢機卿と新しく出来た国立美術館に入る。そこは赤が象徴的かつ効果的に使われている建築だというので見に来たのである。駐車場の隅はまだ工事中なのか金属製の仮囲いが施されている。中に入るとすごい人混みである。人の少ない方に進み、若い女性のあとを追っていくと、その女性は美術館の中に設けられたアパートの区域に入って行った。なるほど美術館の中に住むのも悪くないが、部外者は入れないので引き返そうとすると、振り向いたその女性と目が合った。軽く微笑んで会釈をしてくれた。それから建物の中を回るが、窓枠などに十字の赤に見えるような仕掛けがあるだけで、思っていたほどのものはない。そのうち中庭でセレモニーが始まるので行ってみると、ローマ教皇庁の重職の人たちが勢ぞろいしている。友人も急遽その隅に加わることになったが、真っ赤だと思っていた友人の枢機卿服が、教皇庁の人たちの鮮烈な赤にくらべると臙脂にしか見えない。友人にそう言うと彼も頷いた。その後喫茶コーナーに行くと、誰かが「ヒーコーください」と言っている。「ここはまったく火星に似ている」と言う人もいる。さらに、「風呂へえったんだ」という声も聞こえる。それが皆実に自然な感じで、発話の内容にぴったりのとても良い声で語られたので、わたしはうれしくなる。気がつくと自分は電車の中で裸でシャワーを浴びている。我ながら筋骨隆々とした体で、人に見られているのに全く恥ずかしい気がしないのである。