京阪往復

三月二日(金)雨
宿酔を残して起床。予定よりやや遅く八時半過ぎホテルを出で、渡辺橋より京阪にて祇園四条に至る。雨の中鴨川を渡つて阪急河原町駅に行きコインロツカーに荷物を預けてから再び京阪祇園四条に戻り、一駅分電車で南下して五条で降り、再び徒歩長講堂に至る。後白河法皇の持仏堂が天正年間に移設された寺院にて、後白河法皇の尊像や肖像、自筆の『過去現在牒』などを見る。其れから再び歩き、途中漆器の老舗にて手頃な値段の食器など求め、更に早めの昼食を取つた後因幡平等寺に着く。長講堂同様冬の京都の特別公開にて日本三如来薬師如来像を拝す。革堂、六角堂と並び京の町衆の信仰を得たる堂なれば一度訪ねたく思ひたるを果たせるは幸ひ也。烏丸御池から地下鉄で今出川に上り相国寺内の大光明寺に行く。此れも特別公開にて、先日読んだ『室町時代の一皇族の生涯』にて知りたる伏見宮家の菩提寺で伏見に在りし同名の寺が後に移されしものなれば興味ありて訪ぬるもの也。此の日訪ねし三か所は皆冬の特別公開にてガイドの説明あり。先年春の特別公開では学生ボランテイアらしき若者の説明たどたどしく却つて煩く感じたれども、今回は皆年配の方々にて懇切な説明は大いに参考となる。かくあつて欲しいものである。又特別公開では庭も撮影禁止の多い中此の大光明寺は撮影が許されるのも嬉しい。
光明寺心字の庭
其の後相国寺内にある承天閣美術館に行き、宗達の蔦の細道図屏風や等伯の竹林猿猴図屏風の他、応挙若冲探幽呉春や蕪村の屏風絵を愉しむ。実に名品を揃へてゐる上、美術館周りの庭やアプローチの手入れも行き届き金持ちの寺といふ印象也。美術館の近くで雨に濡れた今年初めての梅を見る。
相国寺雨に濡れる紅白の梅
冬の京都特別公開三カ所を回りスタンプラリーが貯まつたので、俵屋吉富に行き菓子抹茶にて一憩す。再び地下鉄にて市役所前まで行き、寺町通り界隈の店を見て歩く。一保堂にて抹茶を買はんとして試飲するに値段の割に良くなければ焙じ茶のみ購ふ。古本屋骨董屋を巡り鳩居堂にて和紙の便箋を購ひ、河原町に戻り荷物を取り出し阪急にて門戸厄神まで行き、徒歩N子の友人I氏夫妻宅のマンシオンに至る。到着して暫く後I氏も帰着し、飲食を倶にす。土産の鱲子(からすみ)を肴に日本酒を飲む。北雪なる酒を初めて飲むも極めて旨し。十一時過ぎ就寝。余を除く三人は其の後も話し続けたる様子也。