寺町夷川紫野

三月三日(月)陰晴不定時々小雨
ホテルに荷物を預けてから三條通りで朝食の後十時半烏丸御池驛にて如覚と落合ひ、再び三條を東に進み亀屋則克にて菓子を購ひ、また分銅屋にて濃紺の足袋を買つた後寺町通りを北上、香炉を物色したいといふ如覚に付合ひ骨董古美術の店を始め、竹細工屋や紙屋等余のよく行く店を見て廻る。其れから夷川通りを西に戻るも、既に見知りたる店の跡が駐車場になる等の變化を知る。家具の店を何軒か見て烏丸通りの松榮堂を覗いた後本家尾張屋に入る。此れは先日大阪でK氏から聞いた蕎麦屋で、酒の肴に取つた鰊や蕎麦味噌も美味なれど、兎に角蕎麦の旨さに驚く。其れも値段はさして高くはなく、老舗の店構への雰囲気も良く、すつかり氣に入る。だし卷玉子は時間が早くて食べられなかつたが、今後京都に行く度に寄りたい店である。食後に蕎麦板、蕎麦饅頭を食し、此方も旨いので土産に決定。併せて生蕎麦、蕎麦つゆも購入。食事中如覚は先ほど見た二月堂机が氣になるらしく、大満足で尾張屋を出た後再び夷川通りに戻り、万市といふ店で再び思案し始める。此の店は机や棚の他茶道具や陶器も置いてあり、品揃へも良くて見てゐて樂しい。結局かなり確りとした造りの二月堂机を購入することに決めた如覚がクレジツトカードで払はうとすると、店主なのか相手をしてゐた初老の男性が、さういふ機械が苦手で前にも客に迷惑を掛けたので勘弁して欲しい、其の代り品物を先に送るので着いた後でいいから郵便振替で入金して呉れと言ひ出す。信用取引といふことになるが、如何にも京都らしいやりとりであつた。
丸太町から地下鐡で北大路に上り、其処からタクシーで大徳寺に移動。京の冬の旅で特別公開の興臨院と聚光院を拝観。庭と襖絵と茶室の三点セツトとでもいふべき見所をじつくりと見て廻る。其れから高桐院の前を通つて北大路通りに出で、器館にて陶磁器を見て飯茶碗をひとつ購ふ。其れから隣の大かうにて千枚漬京漬物を買ひ再びタクシーにて北大路に戻り、地下鐡を烏丸御池で降りてホテルに戻り荷物を受け取つてタクシーで京都驛へ。まず新幹線の指定券を取つてから如覚が荷物をコインロツカーへ取りに行き、辨當や土産飲物等を買込んで六時半過ぎの列車に乘る。車中ビールと辨當さらに亀屋則克の和菓子を食し、少し寝たら早や新横濱に着く。如覚とは此処で別れ帰途に就く。九時半前我が家に辿り着き、買つた物や着た物の整理などして早めに寝る。六日間に及んだ関西への旅も終はつた訳である。


興臨院の庭