京都の休日 十一月十日(土)晴時々小雨

宿の近くの喫茶店でモーニングの朝食の後地下鐡にて丸太町へ。徒歩京都御苑に入り、無料公開中の閑院宮邸跡を見た後拾翠亭に至る。九条家の屋敷の一部、茶室として建てられし江戸期の建物也。九条池に面し、紅葉も眼下に眺むる好適の立地なり。余は予てより訪はんとするも公開日が限られたることもありやつと宿願を果す。市の管理なれば拝観料も百五十圓と安く、しかも茶室内の撮影も自由なるは絶好の景色に加へ實に有難き舊蹟と云ふべし。騒がしき客もなく庭や紅葉の風光を愉しみ清清しくも穏やかな朝の一刻を過す。






拾翠亭
御苑を歩み、下立売通りから西に出で、京都府庁の正面を通り、油小路を上る。數百メートル歩き樂美術館に入る。「肌をめでる」なる企画展を観る。樂茶碗、漆器、茶釜の逸品の肌合ひに接す。繪葉書數葉を購ふ。辞して堀川通りを渡り晴明神社を拝す。若き人多し。陰陽師の人氣未だ衰へずと見ゆ。近くの西陣織会館をざつと見てから今出川、油小路を辿つて晝食の店捜すも見つからず、堀川通りに戻りやつと田丸弥なる店を見つけ、余は穴子ちらし、家人はにう麺とピラフの定食をとる。思ひがけず旨し。それから少し道を戻る形で秋の特別公開中の報恩寺に赴く。鳴虎の名で知られる虎の繪と、驚くべき細密な佛像が彫られた千體佛を拝観。後者を間近かにじつくり見られた事は僥倖以外の何物でもなし。此れだけでも見るに足る逸品也。其の後小川通り周辺の茶道具屋を幾つか覗き、良いものを見るも其の値段に驚き、表千家裏千家の門を寫眞に収めてから茶道資料館に入る。家人は裏千家の資格持つ者なれば割引となる。まづ呈茶席に赴くに、出された茶菓が晝食をとりし田丸弥のものなるも可笑し。正に其の菓子をみやげに買はうかと思ふも止みたるものにて、食すれば左程の味ならず。買はずに正解なり。一服の後展示物を観る。勉強になること多し。資料館を出て隣の本法寺の庭を拝観。此処は何故かいつも観光客の姿殆どなし。家人は此の寺の佇ひを氣に入りたるやうなり。長谷川等伯所縁の寺にて余も好きな寺である。

本法寺
其れから鞍馬口驛まで歩き地下鐡にて四条に出づ。土曜の夕方の雑踏の中四条通りを東に進む。京都を知れば知る程四条河原町周辺は嫌ひになる。鴨川を渡り祇園の原了郭にて黒七味を購ひ、近くの鍵善良房にて葛きりを食さんとするも客行列を成せば諦め、大和大通りを三条まで上る。此の通りの方が余程京都らしき店も多く静かにて、祇園からは地下鐡四条驛よりは三条の方が近ければ、今後余は余程の事がない限り烏丸通りから河原町にかけての四条通りを歩むことは廃せんと思ふ。地下鐡にて烏丸御池に戻り、宿で荷物を受け取り再び地下鐡にて京都驛へ。八条口に出で伊丹空港行のバスに乗り込む。車中熟睡。出発まで一時間程あれば空港ビルの豚カツ屋にて夕食。此れが意外にも旨し。八時十五分發の飛行機にて羽田へ。羽田からのバスもすぐにあり、割合スムーズに事が運び十時半過ぎには歸宅。購入せし品々を眺め、改めて良い旅であつたと思ふ。