家の中

二月十一日(土)晴
友人の家に行くと、そこは嘗て自分が住んでいたアメリカの家であった。ゲストルームの別棟もある広い家で、私は使わずにいた部屋を今でも何故もっとそこを使わなかったのかと思うくらいなので懐かしく中を見て歩く。昔のままの家具や置き物である。友人は途中で買物に出掛けてしまい、ひとりでバスルームに行くと風呂上りの女性が髪を乾かしていた。前の職場のKである。リボンを巻きつけたような格好で太腿が露わなのだが、昔だったらこういう場面で何とかしてセックスしてしまうのだろうが、今となってはそんな気になれないし、彼女も昔は細くて可愛かったものの最早それなりに歳とってしまったことに気づく。お互いにそれがわかるから安心してその場に居られるのである。見るとバスタブに湯がまだ残っているので、私は「出たばかり?」と聞くと「うん」との答え。「じゃあ俺も入る」といって湯船に浸かる。やや温めだが気持ちがいい。それから私は会社に出掛けるため、東海道線の駅までタクシーに乗る。駅前の狭い道のぎりぎり左に寄せてタクシーは止り、左側は溝なので出られず、右のドアーから出ることになるが、その際お釣りの小銭を座席に落としてしまう。同乗していた一人は急ぐからといって先に行ってしまい、私は小銭を拾うのに手間取って、電車一本逃したなと思う。ゆっくり駅の方に行くと、三両編成の電車が出て行くところで、平塚で増結するまでは三両であることを知り、でも座れるだろうと思って見ていると、出発してすぐに電車がいきなり脱線して、一両目は真ん中から折れてくの字に曲がってしまう。子どもの泣き声が聞こえるのだが、私のいる場所は崖の縁で、線路は崖下にあるからどうすることも出来ない。やがて不気味な静寂が訪れる。先に出た人は大丈夫だっただろうかと心配しながら、自分も飛び乗っていた可能性が高いだけに、ああやっぱり俺は悪運は強いのだなと思うのであった。