風船犬

二月十日(金)陰
会社で働いていると、本部長が来客だから一緒に出てくれと言う。そこには秘書らしい私の知らない女性もいて、一緒に出るようである。ところが、私はちょっと嫌だなと思ったとたん足が進まなくなり、その場で左足を軸にぐるぐると廻りはじめてしまう。その間に彼らは応接に向かい、私は何とか回転を止め、這って受付に行き誰が客なのかを聞くと××だというので、それなら行かなくていいと思い、それより足が萎えるようにぐるぐる回ったショックから研究の医務室に行かねばと思う。そして大変な苦労をしながらやはり這って行き、その場に居た看護師の後藤さんに助けを求めるのだが、彼女は電話をしていてとりあってくれない。それで私は力尽きてばったりと倒れ苦悶する。そこへすでに退職した応用研の沢野さんが来てワゴンの後ろの席に私を乗せ、さらに何人かも乗ってさあ出発と言って出掛ける。私がどこに行くのかと聞くと、出張者は必ず西太后の墓に連れて行くのだと言う。それでやっと自分が中国にいたことを知る。高速道路に入ると、前をランボルギーニに似たスーパーカーが走っているのだが、車線に対して車体を斜めにしたまま走っている。聞けば最新式はそのように作られているのだという。ところが、よく見るとトランクの扉が開いていて格好悪い上ノロノロ走っていて、抜かそうとすると進路妨害をする。しばらくしてその車が路肩に止まり、中から太ってメガネをかけたいかにも中国の金持ちらしいふてぶてしくエレガンスと無縁な男が降りて来て、トランクを閉めると安全確認もせずに急発進して去る。私はその後日本家屋の旅館に入るが、満潮のせいか部屋の窓の高さまで海水が満ちている。見るとその海の中を会社の中山と岡島が水着を着て泳いでいる。彼女たちの水着姿は珍しいので、私もすぐに飛び込んで泳ぎ始める。意外にうまく泳げて気分がいい。私は水着ではなく下着しかつけていないが、まあいいかと思う。しばらく泳いで部屋に戻ると、中庭で二匹の犬がとてつもなく大きな口を開けている。どうやら風に向かって口を広げ、風を取り込んで風船のように体を膨らまそうとしているらしい。みるみるうちに犬が牛ぐらいの大きさになってしまった。私はここからどうやって逃げ出せばいいのか困惑し始めていた。