線と地形

 原武史『「線」の思考』読了。期待したほどには面白くなかった。鉄道路線と近代の歴代天皇や皇族と宗教を掛け合わせたアイデアは良いのだが、単なる旅行記事のようでもあり、ビジュアルがない分航空会社の機内誌の紀行文より退屈なものも少なくなかった。『レッドアローとスターハウス』で見せた、「西武線の思想」の解明ほどの深みはないし、著者の得意な「線」、すなわち鉄道路線を扱うにもかかわらず、鉄道ファン向けの面白い話題も少なく、「小説新潮」連載ということもあってか中途半端な印象である。そもそも「小説新潮」の読者層というのが私の想像範囲を越えているが、少なくとも『地形の思想史』の方が遥かに面白かった。

 中では、『地形の思想史』でも掘り下げ方が秀逸であった房総半島に今度は日蓮の足跡を辿るものと、小田急江ノ島線カトリックとのつながりを見出したものが面白かったように思う。近代史が専門ということもあるのだろうが、古代史とのつながりを訪ねる旅は無理やり辻褄合わせのような記述が多くてややしらけるものであった。

 昨日、久しぶりに本郷の東大経済学部図書館に社史を寄贈に行ったのだが、正門と赤門以外は門を閉ざし、氏名や用件を書かなくては入れないようになっていた。構内の人も少なく、生協も休みで淋しい限りであった。帰りに本郷三丁目の交差点にある大学堂という古本屋で、高山宏先生の『終末のオルガノン』とコクトーの『ぼく自身あるいは困難な存在』を購う。古本屋で本を買うのも考えてみると久しぶりのことであった。