就学浪人

就職浪人といふ言葉を最近よく耳にするが、考へてみると其れはをかしな言ひ方だ。仕官先のない侍を浪人といつたのだから、学校を終へて就職できずにゐる人は唯「浪人」と呼べばすむ話である。寧ろ今普通に使われてゐる、大学に入れず次の年の試験まで予備校などに通ふ人たちの方こそ、「大学浪人」「入学浪人」或いは「就学浪人」とでも呼ぶべきではないだらうか。序に言へば、新卒のみならず失職したり解雇された場合でも「リストラされた」などと言はずに「浪人をしてゐます」と言ひ放つ方が、痩せ我慢とは言へ矜持を保つことが出来て、鬱病にもなりにくいのではないかと思ふ。お家の取り潰しなどでやむなく仕へる主君もなく暮すのが浪人なのだから、新卒の「浪人」などよりこちらの方が余程本来の「浪人」の姿に近いからである。其れと同じ伝で、「窓際族」のわたしは専ら「社内隠居」として、若い者の為に家督を譲り趣味に生きることを選んだ老人を気取る訳である。