妙法蓮華経

三月二十八日(水)晴
先日植木雅俊『仏教、本当の教え』(中公新書)を読んだ。漢訳の過程で生じた誤解曲解が日本においてさらに増幅された結果、原始仏教即ち仏陀の教へから如何に離れてしまつたかを明哲に、しかも読み物としても面白く示してくれる好著であつた。同氏は既に岩波書店から梵漢和対照・現代語訳法華経を出してゐて、余も図書館で借り拾ひ読みして語釈解釈の鋭さと正確な訳出を追及する学問的姿勢に驚いた覚えがある。岩波文庫法華経のサンスクリツト語からの訳出は岩本裕であつたが、植木の新釈により如何に岩本訳が不正確なものであつたかが明らかになつた以上、岩波書店は旧訳を絶版にして植木訳こそを岩波文庫として出すべきであらう。岩波文庫の影響力を考へれば、不正確な訳を世に残し続けることは犯罪に近い。同義的にも新訳を以て其の責を塞ぐべきではないだらうか。そして、出来れば同氏による『維摩経』も岩波文庫から出して貰ひたいものである。
午後外出し、丸善松丸本舗に寄り下記の書籍を購ふ。

午後某社と会議。其の後錦糸町に移動しLホテルの韓国料理店にて懇親会。料理極めて不味し。九時半過ぎ帰宅。京都より来書あり。極めて達筆にて先日毛筆にて送りし書簡の手の拙さに恥ずかしくなる。まだ「恥」といふ感情が残つてゐたらしい。