荒び

八月二十一日(火)晴
いつもは我慢出來てゐた事が幾つか続いて起こつて我慢が出來なくなり、惡い方向に気分が傾いて竟には何もかもが嫌になるといふ事が年に二三回ある。今日はそれであつた。会社での自分の境遇も我慢がならぬし、仕事も上手く行かぬ上に、憤懣遣る方なき事がたて続けに出來する。自己嫌悪と怒り、不愉快さと情けなさが一団となつて、何をする気にもなれず気分は滅入るばかりである。普段やつてゐることも、昨日まで大切に思つてゐたことも、何もかもがつまらなく思へ、気力が抜け切る。かういふ時は酒を飲むか、下らないテレビや映画を何時間もぶつ続けに見て、自分を一度最低の処まで落とさないと済まなくなる。今日は家に戻り買物に出て酒肴を買ひ込んで家で飲むことにする。気は晴れないが、N子に余の嘆きや不満や無力さを愚痴めいて大袈裟に話すうち、少しは気が紛れたか、酔ひもあつていつもより早く寝に就く。荒んだ一日であつた。