ベートーヴエン

七月九日(火)晴
梅雨が明け暑さが本番となつて本來なら夏男の本領発揮で元氣一杯の筈が、體調が囘復しない。今日やつと、少しは匂ひが分かるやうになつたが、昨日までは何を嗅いでも何の匂ひも感じなかつた。それでも仕事があるから調香をせねばならず、言つてみれば耳の聞こえぬベートーヴエンが作曲したやうに、頭の中で処方を組み立てる訳である。それでもまあ、全くのオリジナル曲の作曲といふよりは編曲に近い作業が殆どだから何とかなるのである。風邪をひいて寝込んだり休んだりする間にあつといふ間に七月も前半が終はる。じれつたいやうな、呆気ないやうな、妙な氣分が續いてゐる。