桐生伊香保

三月十九日(水)陰時々晴
有給休暇消化促進の為會社を休み家人とドライヴに出づ。首都高途中混雑もあり、晝前桐生織物記念館に着く。桐生はかつて西の西陣と並び称される程の絹織物の産地にて、織物産業の一端に触れん事を期して赴く。街並みは普通の地方都市なれど所々に繁栄時の名残か立派な西洋風建築物散在す。此の記念館も其の一つにて昭和初期の建築なるも広壮なる二階建ての贅沢な間取りの建物也。八丁撚糸機やジヤガード式織り機などの展示、又實際の桐生産絹織物の展示もあり。今も絹織物の産地として知られるも、展示の品に此れと言つて桐生織らしき特色なし。また柄や文様も特に新鮮味なく、興味を引くもの無し。一階の即売所に男物の角帯なども置けど、面白き色柄の一つもなし。西陣との差は歴然たり。ネクタイ地やスカーフ、ドレス生地などへの供給あつて産業としては存續し得るも、着物好きの趣味に叶ふものは少なしといふべし。結城とは其の點に於いて全く別の道を行くものならん。独自の趣味やセンスを追ふのではなく、市場が要求する品質やセンスに追随して延命を図りしものならん。現今、結城や塩澤、大島、小千谷の地名は産地として聞けど、桐生の名の通る事はなく、桐生産であることを誇る風潮もなし。品質とセンスが伴はずば結局ブランドとしての価値は出來ぬものなのであらう。絹織物を産業として見た場合の、歴史と現在を知るきつかけにはなつた。
藏を改造して店舗になした蕎麦屋にて晝食の後、伊香保温泉に向かふ。勾配の續く道をかなり登つて行き、道端にまだ雪の殘る伊香保温泉に到着。車を駐車場に停めて石段の温泉旅館街を歩く。平日なればにや、土産物屋など休み多し。射的場やらスナツクやら、昭和の匂ひの殘る雰囲気を見た後「石段の湯」なる浴場にて温泉に入る。久しぶりの温泉なれば大いに寛ぐ。五時前温泉を後にし、途上道の驛にて野菜など買ひ求めつつゆつくり走つて歸る。九時半前歸宅。買つて來た刺身蒟蒻で酒を飲んで寝る。體はぽかぽかと温かし。