都内散策其の他

庚寅 神無月二日 晴

六時起床。七時家を出で、九時より早稲田喜久井町の一如庵にて尺八稽古。流し鈴慕、虚空を吹く。十時過ぎ穴八幡の青空古本市に赴き数書を購ふ。宮崎滔天「三十三年の夢」を終に適正価格にて入手。昼はすず金にて鰻を餐す。其の後目白に出で、其の名も目白てふ店にて二尺三寸管を収める袋を購ふ。更に池袋経由茗荷谷に到り、徒歩小石川植物園に往き園内を散策す。曼珠沙華咲き乱れ、萩も咲き始む。日差し尚強く日向は暑しと雖も、木陰に涼を取り、木々を愛づること数時間に及ぶ。再び池袋経由渋谷に出で、東横線に乗り白楽にて下車し、駅前骨董店ねいろにて、先日来手許に借り試し吹きの後購入に決したる粋鏡銘の二尺三寸管の支払ひを為す。価弐拾萬圓也。須臾にしてねいろを去り、横浜にて某氏に会ふ。余の離職に就いての相談也。一時間程話して帰宅。

川瀬一馬「随筆 柚子の木」(中公文庫)読了。書誌学者の随筆は面白いものが多いが、本書は特に著者の誠実な人柄が偲ばれて楽しく読む。古書訪書への情熱と、安田善次郎の知己を得て古書購買に掛けた努力は尊敬に値す。敗戦直前に召集されて送つた軍隊生活の中で詠はれた短歌連作は胸に染む。

本日購入古書
・「聖なる場所の記憶」鎌田東二講談社学術文庫)同氏の「聖地感覚」を読んで同系列で先行するこの本も読みたくなつたもの。五百円。
・「清沢文集」清沢満之岩波文庫)明治の真宗系仏者の書。「精神主義」を説くものにて明治精神史理解に必読と思ひ購入。百五十円。
・「歌舞音楽略史」小中村清矩述(岩波文庫)二百円。
・「三十三年の夢」宮崎滔天岩波文庫)五百円。
・明治文学全集59巻「河井醉茗・横瀬夜雨・伊良子清白・三木露風集」筑摩書房 三木露風の詩が面白くて前々から欲しかつたもの。六百円。