十年前

十一月二十三日(火)
十年前の今日、みどりさんと亜姫乃がニューヨークJFK空港に降り立つた。わたしは車で迎へに行き、新しい生活が始まつたのである。大切な思ひ出の日々であると共に、其の後にわたしが与えてしまつた苦難を思ふと、悔恨の気持ちの消え去ることはない。たくさんの楽しい時間があつただけに、様々な出来事が去来した本当に重い十年であつた。みどりさんが去つて行つた事による心の空白は未だに埋まらないし、埋まることはないと思ふけれど、此の二年ほどは自分の愚かさといふものに初めて真っ向から向かひ合ひ、何が足りなかつたのか、だうすれば良かつたのかが少しは分かりかけて来たやうな気がする。独りで暮してゐて淋しいと思ふことはないのだけれど、愛別離苦といふ悲しみと煩悩具足の苦しみから逃れることは出来ない。それでゐて悟りを求めて仏道に精進するのではなく、いつの間にか仏教思想史に興味の重心が移るといふ体たらくである。せめて今日一日は心清閑に、自分といふものを省みたいと思ふ。