東大・岩崎邸・新橋

十一月二十七日(土)晴
九時より一如庵にて稽古。先日の演奏会に於ける余の演奏につき如正師より音量もあり音質も通り今後は独奏できるやう精進すべしとの言葉を戴く。坐禅等の呼吸法鍛錬の成果か、嬉しき激励也。本日より布袋軒鈴慕の稽古を始む。一如庵を辞し地下鉄を乗り継ぎ東大農学部二号館生物化学研究室に友人の東原教授を訪ねる。今春着任後に一度訪問せし折にはまだ引越し早々にて、二度目の今回は研究室の看板も調ひ順調に研究活動の進行せる様を示せり。初代教授鈴木梅太郎よりの伝統ある研究室を主宰する同氏の嗅覚研究が今後更に発展する事を祈らざるを得ず。談笑小半刻に及び辞し、本郷通りの古本屋数軒を巡り下記の二書を得る。
藤原定家』安藤次男著/筑摩書房 400円
藤原行成』黒板伸夫著/吉川弘文館 900円
本郷通り蕎麦屋にて昼食の後正門より東大本郷キヤンパスに入る。安田講堂に向ふ公孫樹並木の黄葉見事にて、先日の外苑前に勝る。写真を取る人輝く黄色の葉の下を散策する人の数かなりに昇る。安田講堂前を右に折れ三四郎池に往く。実は本郷キヤンパスに足を踏み入れるのは初めてにて、近代文学において度々言及乃至舞台となる東大内の場所建造物等は殆ど未見也。三四郎池周辺紅葉黄葉も見事なれど、旧大名庭園のやや荒れるに任せた野趣はとても東京の真ん中とは思へぬものにて、下手な公園より余程散策に好適なり。実際家族連れの散歩を始として観光客の姿多く、中には外国語も多く耳にす。余もアメリカ在住時に東部アイビーリーグを中心に主要な大学を訪ねる事殆ど趣味の如くにせしことあり。イエール、プリンストン大学等建造物や雰囲気に忘れ難きものあると雖も、三四郎池を擁する東大も決して見劣りせぬ趣き有り。



三四郎池】

其の儘東大病院の方に抜け、鉄門から無縁坂を下つて旧岩崎邸庭園に到る。此処も初めてなるも、竜馬伝の人気の余波か団体客等群れを成す。コンドル設計の洋館を見学し、日本家屋を通つて庭に出る。其れにしても現在は都立として東京公園協会の管理下にある此の史跡の名称が「旧岩崎邸庭園」であるのは可笑しな話である。旧大名庭園の面影は大燈籠や置石くらゐで後は芝の野原であるから見るべき程のものはなく、価値があるのは庭ではなく建物の方なのであるから「旧岩崎邸」で十分であらう。名称から旧安田庭園旧古河庭園の如きものを想像してゐた余の当ては外れ、其の点は残念であつたが、紅葉は思ひの他綺麗であつた。旧岩崎邸を後にしすぐ側の湯島天神に詣づ。菊花展を見て歩き江戸の面影を偲びつつ御徒町方面に坂を降り、一茶の後地下鉄で新橋に赴く。五時SL広場前にて如道会のY氏O氏と待ち合わせ魚金にて飲む。と言つても酒を飲むのはY先輩のみにて、尺八や遺跡、神社仏閣の話などして八時前散会。帰宅九時前。




【旧岩崎邸と湯島天神菊花展】