谷中の飲み屋

七月二十三日(土)陰時々晴
午前中洗濯掃除。午後家を出で、電車中にて爆睡しつつ早稲田に赴き三時より一如庵にて尺八稽古。如道先生遺愛の二尺一寸管を拝借し、三谷、根笹派虚空、阿字観を吹く。その後千駄木に出て谷中界隈を散策。旧大名庭園の須藤公園に往き蚊に喰はれ、不忍通りにある骨董屋に立ち寄つては店主に見事な金工の水滴、墨床、花瓶などを見せてもらふうちに連絡が入り、六時過ぎ団子坂下交差点にて友人の東大教授T氏と落合ふ。谷中銀座通りを抜け初音横町に至る。昨日の野毛以上に昭和や戦後の面影の残る素敵な一角である。T氏行きつけの沖縄料理店に入るに、丁度谷中近辺の郷土史家の老人一行と同席し、様々な話を聞く。古老の話によれば初音横町は戦後、社会党片山内閣時代に開発されし繁華街がそのまま残るものといふ。
もう一軒極めて狭いバーにて軽く飲んだ後同じ横町のワインを揃へたC'est Qui?なる店に行く。この店にてワインをグラスにて五杯ほど飲む。途中より旧知のT氏の妻君も合流し、楽しく飲む。この夫妻を嶺庵に迎へる日取りも十一月三日と定む。余もN子との出会ひの顛末など話し、楽しい時を過ごす。十一時十八分日暮里発の電車にて帰宅。