雪駄と干し柿

十月十日(月)晴
十時過ぎ車で家を出で、浅草に赴く。浅草寺裏に車を停め、新仲見世の辻屋本店に行き、雪駄を誂へる。流石に南部表は高くて手が出ず、野崎表のからすに印傳の鼻緒をすげて貰ふ。今まで父から貰つた南部表に蛇皮の鼻緒のものを履いてゐたのだが、足が痛むので購ふ気になつたのである。蛇皮も粋だが、今度の珈琲色の畳表の台に濃紺の文様の入つた印傳も中々格好よいものである。其の後仲見世界隈を和装物を中心に見て廻る。男物の専門店もあり銀座とはまた別種の世界で面白い。角袖はまだ殆ど出てゐないやうである。鼠色の腰紐を一本買ひ、雷門横の黒田屋にて紙を購ひ、遅い昼食を取つてから二子新地のN子の家に向かふ。此処で家から運んだ着物を降し、代りに食器類を少し積み、途中で源吉兆庵に寄り粋甘粛を購ひて家に戻る。帰着後早速嶺庵にて粋甘粛を食べN子の立てた薄茶を呑む。粋甘粛とは干し柿をまるごと使つた和菓子で、秋の味覚である。夜は依頼された原稿の為の調べ物に費やす。