神楽坂神保町内幸町

十月十四日(金)晴夜に雨
十時前家を出で二子新地のN子の家に行く。其処で着物に着替へ、まずは神楽坂のアグネスホテルに向かふ。チエツクインをして部屋に荷物を置いてから再び街に出で、地下鉄で九段下に到り、徒歩神保町交差点に向かふ途中偶々見つけた便利堂のシヨツプに寄る。此の日余りに暑ければ狩野探幽龍図の扇子を購ふ。併せて鉄斎の富士画が透かしで入つた常用する便箋紙を買ふ。其の後神保町のS社に赴き、先日依頼のあつた雑誌への寄稿に関し編集者と打ち合せをなす。喫茶さぼうるにて一茶の後地下鉄にて日比谷に移動、徒歩出光美術館に入る。大雅、玉堂、蕪村の画を観る。大雅はもとより余の偏愛せし文人なるも、今回初めて浦上玉堂の作をまとまつて見ることを得て感ずるところ大なり。省筆の極みと墨の濃淡の自在は驚嘆すべきもの也。堪能して辞し、徒歩内幸町ホールに移動。神先生他に会場で会ひN子を紹介する。六時半より琴古流奨励演奏会。各流の代表五人が演奏。我が如道会からは森脇如星君が越後三谷を吹く。贔屓目もあらうが出色の出来。後は残月が流石の名曲で聞かせた。八時半終演となり、如道会関係者に挨拶の後神楽坂に戻る。鮨屋の勘せいにて遅い夕食をとり宿に戻り、ホテルのバーにて少し呑んでから就寝。