隠居のゴルフ

十一月二十一日(月)晴
平日なれど有休を取りて今年二度目のゴルフに往く。同伴は営業のS氏とT氏。二人は現役なれど余はすでに社内的には学会含め社用にての外出罷りならぬ座敷牢押込めの隠居の如き身上にて、之を称して社内隠居と云ふ。研究所内の会議や打合せにも一切呼ばれず、何の責任もないからこれ程楽な仕事はない。
そんな身であるからゴルフも若い頃のやうに力一杯振り回すこともなく、スコアに拘るでもなく、ただ気の合ふ仲間と冗談を飛ばし合ひながら気楽に一日を楽しむ風であり、まさに隠居のゴルフである。軽く振る分飛びはしないが大きくフエアウエイを外れることもなく、ボールを捜し廻つたり谷底から打ち上げて駆け上つたりといふことがなくなつたから前よりもラウンド後に疲れを感じない。
それにしても余の目下の趣味が茶に香に尺八に書といふのは隠居らしいといふか、実に爺らしい生活ではなからうか。後は盆栽と陶芸、はたまた蕎麦打ちでも始めれば完璧であらう。もつとも余の世代は定年後に年金が出るまでの時間が長いから、六十過ぎたら却つてこんな隠居生活は経済的に不可能であり、勤めてゐる間に前倒しで隠居生活を送らせて貰つてゐる会社には感謝の仕様もないのである。