住所録

十二月二十二日(木)陰
帰宅後尺八練習。夕食の後毛筆にて年賀状の宛名書き。結婚を知らせる通知を兼ねる為今回は近年にない数の年賀状を書くことにした。といふより、メールの普及と海外勤務などによつていつの間にか途絶へてしまつた賀状のやりとりを之を機会に復活させやうと思つたのである。
個人情報保護法の施行以来、ちよつとうつかりしてゐるとすぐに現住所がわからなくなり、古い年賀状などを捜してみるものの、結局不明のまま断念といふことが多くなつた。それもあつて今回、住所録を作成することにした。パソコンに打ち込んで、葉書に印刷までして貰へる住所管理のソフトは便利だが、余はどうしても好きになれない。それで厚い表紙のしつかりした作りの住所録を購入したのである。普通は仕事や血縁の義理もあらうし、気の進まぬ付き合ひもあるか知れないが、余の場合大切に思ふ人しか住所録に載せないから、名前を記し住所を書き込んで行く間に、その方との過去の出来事などが思ひ出され、さうした人々と過ごしてきた時間や関係がとても大切なものに思へてくる。住所録とは自分の生きて来た時間が凝縮された宝物でもあるのだ。宝のノートとして、名前と住所を丁寧に書きこんでゆくのは楽しいものである。その住所録をもとに、改めて葉書に小筆をとつて宛名を書く。書の実用場面の最たるものであらう。少しづつ慣れてまともな字になるのがわかるのも楽しい。いずれにせよ、年末に時間的な余裕が出来た、隠居ならではの楽しみと言へやうか。