三日坊主

五月十四日(月)晴
金曜から、N子が専門家から聞いて來たといふ野菜スープダイエツトを始めた。毎日一回、なるべくなら夕食を野菜スープしかとらないといふもので、他の二食は普通の食事でいいが、一度は野菜スープの他には炭水化物を一切とらない。ところが、目の前に野菜がたくさん入つた一椀のスープとスプーンだけといふのは、やつてみると分かると思ふが、何といふか、とても気持ちの滅入るものなのである。失業者か浮浪者に落ちぶれて、救世軍キリスト教系慈善団体か何かの炊き出しにやつとありついたやうな、シベリアに抑留されてゐた頃を思ひ出すといふか、惨めな気分になつて來る。しかも、其の後の空腹は耐へ難く、余計に悲惨な気持ちになる。周囲の浮浪者とは出自が違ふといふ矜持を保たうとすればする程、悲しげな面持ちになつてしまふらしく、精神衛生上よろしくないといふ事になつて、N子と相談の上野菜スープダイエツトは中止することにした。僅か三日の試みであつた。