盛り沢山

五月十二日(土)晴
九時半家を出で横浜高島屋にて岳母への母の日の贈り物を購ひ併せて余の鞄も求む。横浜より上野に往き新装成つた上野公園の木陰にて持参の弁当をN子と食す。晴天なれど風もあり日蔭はやや寒き程也。其れから東京国立博物館にてボストン美術館展を観る。佛画は保存状態も良く驚くほど彩色鮮やかに残り、日本に在れば間違ひなく国宝とされるべき作品数多あり。特に平安期の馬頭観音菩薩の迫力と普賢延命菩薩の均整美には目を瞠るものあり。鎌倉期快慶の弥勒像も文句なく美しい。次の絵巻物の部屋は人気らしく人が群れをなして見難ければ通過し、衣装や刀はざつと見て其の華麗さと精妙さに驚き、初期狩野派中心の中世水墨画の部屋は期待ほどではなく、今回は何と言つても曽我蕭白のコレクシオンが素晴らしかつた。極めて近代的で現代にも通ずる構図と描線、さらに奇想を感じさせる構成などを堪能す。一度にこれだけ蕭白を観たのも初めてにて、佛画と蕭白が此の展覧会の白眉であらう。
二時過ぎ博物館を後にし銀座線の日本橋でN子と別れ余は地下鉄を乗り継ぎ早稲田に至り、三時より一如庵にて尺八稽古。越後三谷を四回吹く。全体の曲想がやつと頭に入り始める。四時半辞して渋谷に向かひ徒歩文化村に到つてN子と合流し、一階ギヤラリーにてオークシヨン展示を再度見るも矢張り欲しいと思ふものなく東急プラザ方面に戾る。古本屋を一件覗いた後再びN子と別れ六時前モアイ像前にて竹友同時期会の三名と待合せ、近くの居酒屋に入る。其の後順次参加者來たり、総勢九名にて八時半まで歓談。其の後も一名帰るのみにて残り全員が近くのバーに行き二次会。其の場にN子と友人の二人も加はり十時過ぎまで飲む。三十年近い付合ひにて話題尽きず楽しい時を過ごす。帰宅十二時を過ぐ。直ちに就寝。