六本脚

五月十五日(火)雨
執行役員と出張で大阪に來てゐる。夕方に東京から着く得意先の女性部長と三人で会食の予定である。其の間シヨツピングセンターのやうな処に居ると、中年の男女二名が「見つけた!」といふ感じでS執行役員に歩み寄り話を始めた。何か込み入つた事情があるのだらうと察したわたしは其の場を去り、ひとり天神橋筋に近い旅館に入つて夜まで休むことにする。和風の旅館の二階の角部屋で、横が小さな公園になつてゐる。わたしはとにかく眠くて堪らずスーツが皺になるのも構はず其の儘寝込んでしまふ。やつとのことで目を覚ますと既に七時を過ぎてゐる。公園に出てみると犬や猫が五・六匹ゐて仲良くしてゐるが、見れば皆脚が六本あつてぎよつとする。S執行役員に連絡を取らうとするが、携帯電話が三つもある上持つてゐない筈のアイフオンまであつて、どれを使つても電話番号がなくてつながらない。さうかうするうち何故か母と叔母がやつて來る。何で此処に居るのを知つてゐるのかと驚くが、兎に角警察に行かうといふので三人で出掛けると、丁度S執行役員が拘束されて警察署の隣のビルに連れて行かれる処であつた。わたしが呆然としてゐると、母がセキユリテイのきつい入り口をうまく搔い潜つてビルの中に入り、知り合ひらしい人に愛想よく挨拶をして何か聞き出してゐる。やがて戻つて來ると、三億円の脱税容疑だといふので、わたしが「資産が十一億あるからそれくらゐなら大丈夫」と訳のわからぬことを言つたら目が覚めた。

前日S執行役員の此の六月での退任の報に接したばかりでの夢である。資産家であるのは事実だが、勿論脱税もしてゐないし、資産額など余が知つてゐる訳もない。世話になつた方だけに退任は残念だが、今朝会社に出てみると同時に余の勤める研究開発本部の本部長も退任とのことで、此方は大嫌ひな人間だつただけに、一勝一敗といふ感じである。