赤銅色の假面

一月十三日(水)晴
會社の若い人たちと何かのお祝ひといふことで一緒に晝食をとりにエレベーターに乘る。ところが一階で降りた際に私だけ取り殘されて皆先に行つてしまふ。店の名を聞いてゐなかつたので合流を諦め、會社の食堂で食べることにして、手にしてゐた毛布を畳みながら再びエレベーターに乘ると、夏服の若い女性がゐる。思はず、寒くないですかと聞くとさうでもないと答へる。ノースリーブで下はホツトパンツといふいでたちである。地上に出るとその女性の友人らしい、やはり若い女が軽装で立つてゐる。こちらは夏服といふより、上着は肌けて乳房が丸出しになつてゐる。驚いて最初の女性の方を向くとこちらもいつの間にか乳房を露出してゐる。二番目の女性の方が大きく、乳首や乳輪も私の好みだつたので、私は食事でもどうですとふたりを誘ひ社員食堂に連れて行く。其の間もチラチラと胸もとを見遣つてゐたのは言ふまでもない。それぞれトレーに料理を選び取りレジに並んでゐると、會計のおばさんが何度やつてもエラーになるといふので、理由を聞くとそのふたりが出したクレジットカードのせゐだと言ふ。いつの間にかふたりは三十代のサラリーマンになつてゐた。私が全員の分を現金で払ふと言ふと、七千十六圓だと言ふ。私は小銭を使ひたくて五圓玉と一圓玉を探すが、たくさんあるのに上手く摑み出せずにイライラしてゐる間にとてつもない時間が過ぎたことを實感し、ひとりでしよんぼりと家に歸ると、さつきのふたりが食事の禮の積りなのか家の中を蔦や羊歯類などの觀葉植物で飾り付けがしてある。それがなかなかセンスがいい。ふたりは既に二・三日滞在してゐたらしく、家人に書齋はもう見せたかと聞くとまだだと言ふのでふたりを連れて行くが書齋のあるべき場處に書齋がない。私は焦るが階段に堆く本が積まれてゐて、ひとりがその中からつげ義春の漫畫を取つて讀み始める。もうひとりは元の好きな乳房の女性に戻つてゐて、壁に掛けられた赤銅色の假面を取つてこれはとても良い物だと言ふ。韓國の古典藝能で使ふやうな假面である。彼女は韓國で其の藝能の研究をしてゐたらしい。見ると本堂には赤銅色の様々な假面をつけた異形の者が立ち並んで豆まきのやうなことをしてゐる。其れが終はつて人のゐなくなつた本堂に、やつと収まりましたと田舎からお禮参りに來た人がゐる。聞けば米軍に對して妨害をする一味が潜伏する村に米軍が侵攻してゐたのだが、やつと掃討されて米軍が撤退したといふのである。ところが、エージェントが派遣されて行つて見ると、米軍がまだゐるだけでなく、ふたつの勢力が抗争中で、治安が惡いどころではなく殺戮が日常化してゐる。私もエージェントと一緒に其の様を目撃し、ついにエージェントも高性能の機関銃を取り出して無差別殺人をし始める。其の頃には、これが殺された人間の數の世界記録を作る爲の映畫であることを理解してゐる。向かうから自轉車三人組がやつて來て吹き矢で攻撃する。其れがエージェントと私に刺さる。えっと驚いてゐるとエージェントは三人を殺し、自分に刺さつた矢を刺さつた方向に肉を抉るやうに押し抜いた。私は思はず引き抜かうとしてしまひ、手元の羽丈の部分がすぽつと抜けて、中の刺さつた矢尻の部分がシャキンと逆向きに開いていよいよ抜けなくなつてしまつた。しまつたと思ふが時すでに遅しである。その時厳重に包み込まれた荷物が届き、開けると絹の布に包まれた蒔繪の匣である。さらに其れを開けると私が持つてゐたのとは異なる赤銅色の假面である。私は此の面を着けてゐるべきだつた事を悟るのであつた。