訃音

一月五日(火)晴
昨日來脳幹から後頭部にかけて鈍痛があり、吐き気や眩暈もあつて病院に行く事も考へたが、今朝やや快方に感じたので會社に出掛けた。仕事始めである。所長代理格の執行役員のつまらぬ説示を拝聴して職場に戻ると、社内イントラネツト上に元取締役M氏の訃報を見出した。余が仏蘭西駐在時の現地法人のトツプであり随分と世話になつた方である。若僧ながら怖いもの知らずで生意気だつた余を、今思へば随分寛大に扱つて戴いたやうに思ふ。
退任後は思ふところがあつたらしく會社とは極力關はりを持たぬ生活を送られてゐたやうだ。三度目の結婚を報せる葉書を出して以來、年賀状を交換する程度のお付き合ひは復活させてゐたが、お會ひすることもなく永のお別れになつてしまつた。今年は賀状が届かなかつたのでご病氣でもされたかと案じてゐたところであつたが、昨年末に亡くなられて密葬は既に済ませて告知のみが會社に届いたやうだ。思ひ出の斷片が頭の中を駆け巡る。感謝とご冥福を祈るのみである。合掌。