野球の後

二月二十四日(水)陰
廣嶋が満塁ホームラン二本打つ。其の後山本浩二が代打で出るが素振りをして腰を痛めてベンチに下がる。私は試合後その山本に挨拶に行く。すぐ脇をイチローと城島が談笑しながら歸つて行く。私も歸りかけるが球場に自分の椅子を忘れて來たことに氣づいて取つてから實家に戻ると、其処には會社の人間がたくさん出入りしてゐた。特に自分の天敵Y女史が私の母に取り入つてゐるのを見て私は我慢が出來ずに、此処は會社のリフレツシユルームではないと怒鳴り、Yにすぐ歸れと言ふ。さうかうしてゐるうちに妹も此の家は落ち着かないから出て行くと言ひ出す。余もその通りだと言つて、S根やN山と一緒にYをなじる。私はYが私のことを馬鹿にしてゐる理由は、私が彼女の上司だつた頃に彼女の自尊心を踏みにじつたからだと言ふ。其の時空に噴煙が上がり灰が降つて來る。第一陣は輕かつたが次の降灰に備へ、自分はここにゐる十七名を何としても守らねばと思ふ。家からヘルメツト代りのボウルや金属の蓋などを掻き集める。すると家には忘れてゐたもうひとつの和室があることを思ひ出して行くと母が正座して位牌を抱いてじつとしてゐる。一家の主婦として位牌を守つてゐるのだらうと思つてゐると、父が來てポケツトに寫眞を入れた。「何?」と聞くと「貞一のだ」と言ふ。夭折した私の兄に當る人だ。そして父が「貞一を毎日風呂に入れてやつてくれ」と言ふ。今までずつと兩親が私に告げずに毎日兄を風呂に入れていたことを初めて知つた私は泣く。今までのことは水に流し、自分は良い子になつて兩親にやさしくしようと思ふ。