五時から多忙 

十一月二十日(火)晴
定時退社し急ぎ歸り自宅近くの整形外科にて診察を受く。五十肩の左肩には先日のよりも強い注射を打たれる。又、足指の痛みは痛風に非ずとの見立てにて念の為レントゲン寫眞を撮るも異常見つからず。経過を見る事となる。歸宅し四十分ばかり尺八を吹きたる後急ぎ夕餉をとり、家人と車で鎌倉に向ふ。家人の書の先生が今週末食器類のガレージセールを為すとの事なれば其の内見にて徳利二本を購ふ。急ぎ家に戻り入浴後讀書、竟に『狩野亨吉の生涯』讀了。かういふ人物の嘗て日本に在った事を誇りに思ふ。東京大學で數學を修めてから改めて哲學を學び、一高の校長や京大文科初代學長を務めるも四十代前半に早々と官職を退き、生涯一冊の著書も殘さず、晩年は書畫骨董の鑑定を生業とした。一生独身で通したが、年齢性別人種職業地位貴賤の如何に關はらず誰に對しても平等に丁寧に接し、面倒見の良さと世俗知の欠如は本書を讀むだけでもハラハラさせられる程である。學識語學力見識讀書量どれを取つても超一流の上に人格品性の優れたる事、他に例を見ない。それでゐて親しみやすくもあつたらしく、超俗にして飄然たる生き様は正に一個の傑作と言ふべきであらう。十一時過ぎ就寝。