言語と文化

五月七日(火)寒し
ダニエル・L・エヴェレット著『ピダハン』(みすず書房刊2012)読了。久しぶりにみすず書房の本を読んだ気がする。みすずの本は安くはないが、本らしい良い匂いがするので好きである。
一人のアメリカ人がキリスト教の伝道者としてアマゾン奥地に棲むピダハン族の中に入り込み、ピダハン語に聖書を翻訳するためピダハン語の習得を始める。その言語や発音の難しさに閉口しながらピダハンの人々と接するうち、チョムスキー流の言語理論では割り切れぬピダハン語の様々な特徴に気づき、その原因でもあり結果でもあるピダハン特有の世界観や文化の素晴らしさに心動かされていく。色の名も数詞もなく、直接経験したことだけに価値を置く彼らは、揺るぎのない日々を幸福そうに淡々と生きている。いつしか、著者はキリスト教の信仰に疑問を抱くようになり、竟に無神論者へと転向する。その一部始終と、その中で芽生えた著者の言語や文化に対する考え方が綴られる訳だが、そうは言っても本書の主役がピダハンの人々であることは疑い得ない。実に魅力的であると同時に、確かに不思議な人たちだと思う。神とか死後の世界に対する観念のみならず、世界創造の神話すら持たないという。他の文化から何ら影響を受けることなく、ひたすら直接体験することだけに関心を持ちつつ、笑顔を絶やさず幸せに生きているのである。
アマゾンは、昔から気になっていた。高校時代、文芸部の後輩と交わした二十一世紀の始まる時アマゾンの何処かで会おうという約束は守れなかったが、ずっと憧れと畏敬をアマゾンという場所とそこに棲む原住民に対して持ち続けて来た。『ヤノマミ』やバルガス=リョサの『密林の語り部』も、そうした私の関心に応えてくれる書物であったが、この本もまた新たに私のお気に入りの「アマゾン本」の仲間入りをしたようだ。
そう言えば珍しく新本定価でアマゾンで購入したのであった。ポイントがつくわけでもないアマゾンを私がよく使うのは、もしかしたらそのネーミングに因っていたのかも知れない。